巻頭の言葉

日本を美しくする会相談役

鍵山秀三郎かぎやま・ひでさぶろう

因果関係を弁える

2016年8月号

特集
思いを伝承する
瀉瓶しゃびょう、という言葉がある。かめの水をそのまま他のかめに移し入れる、の意である。転じて、師は己の一道を通じて体得したものすべてを弟子に注ぎ込む、弟子もまた一滴もこぼさぬようにこれを受け止める、師と弟子の真剣な息が呼応して道は伝承される、ということである。思いを伝承する究極の姿を凝縮した一語である。

古来、多くの先哲が自らの思いを後進に伝えるべく、数多くの言葉を遺してきた。吉田松陰も「士規七則」の前文でそのことを述べている。

冊子を披繙せば、嘉言林の如く、躍々として人に迫る──先哲の言葉を記した書物を繙くと、素晴らしい言葉が林のように連なり、躍動するかのように迫ってくる、というのである。幼少期からこよなく書物を愛した松陰ならではの言である。

ちなみに、「士規七則」は松陰が叔父の子玉木彦介の元服に際し、立派な侍になってほしいという願いを込めて創案したもの。それは時代を超え、人物を導く指針となっている。松陰の思いは時空を超えて後世に伝承された、といえる。
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