巻頭の言葉

日本を美しくする会相談役

鍵山秀三郎かぎやま・ひでさぶろう

攀念痴はんねんちを持たない

2016年5月号

特集
視座を高める
課長の宮崎(仮名)はある日、専務に呼ばれて、「地方営業所の立て直しをやってくれ」と指示された。その営業所は立て続けに5人も所長が替わっていた。そのうち3人は、そのまま会社を去っている。「あの人、あそこに行くの?左遷だね」──社内の誰もがそう言った。宮崎自身もそう思った。

帰宅して妻に話した。「どうしてあなたがあんな所へ」と泣き騒ぐかと思ったら、ニコニコ笑って、「難しい営業所らしいけど、何とかなるわよ。行くのが楽しみ」と言った。「だってあなた、いまの会社が好きなんでしょ。社長さんを尊敬してるんでしょ」。

のしかかっていた暗雲がいっぺんに吹き飛んだ。宮崎の覚悟は決まった。就任3年、宮崎はメキメキ業績を伸ばし、売り上げで全営業所のトップとなり、所長会議で表彰された。

これは左遷だ、と思い込んだままなら、こういう結果にはならなかったに違いない。妻のひと言を契機に、宮崎は視座を高めることで自暴自棄に陥らず、運命を好転させたのである──人材育成家・染谷和巳氏が著書に書いている話である。
特集 視座を高める
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