巻頭の言葉

JFEホールディングス名誉顧問

數土文夫すど・ふみお

あたうるの
取りたるを知るは
まつりごとの宝なり」
『管子』牧民篇、『史記』管晏列伝

2025年5月号

特集
磨すれども磷がず
すれどもうすろがず―『論語』の陽貨ようか第十七に出てくる言葉である。孔子こうしが当時のことわざとして紹介している。

本当に堅いものはいくら磨いても薄くはならない、という意味である。言い換えれば、真の志を持っている者はどんな抵抗障害にあっても、その志は薄くはならない、ということである。

この言葉で思い出す人がいる。この1月2日に91歳で亡くなられた鍵山秀三郎氏のことである。

鍵山さんに初めてお会いしたのは平成4年、弊社が社名を「致知出版社」と改めた頃だった。当時、鍵山さんはまもなく還暦を迎える年齢だった。しかし、会社を起こして30年、掃除という「凡事」を徹底することで見事な社風を作り、自転車1台で始めた会社を年商600億の会社に育てあげていた鍵山さんの言葉には力強い響きがあった。経営のかじ取りをどうするかと思案していた身に、その言葉は天啓のように響いた。

鍵山さんが会社を創業したのは昭和36年、28歳の時だった。独立した鍵山さんが徹底して取り組んだのは掃除だった。
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