2023年7月号
特集
学を為す、故に書を読む
人生に活かす読書①
  • 紀文食品社長堤 裕

向かい風の時には
自分に深みをつけよ

竹輪や蒲鉾、おでんの具材など、家庭でもお馴染みの水産練り物でトップシェアの紀文食品。社長の堤裕氏は、激務の合間に毎年多数の本を読む読書家だが、かつては本など必要ないと思っていた時期もあったという。学ぶことの大切さに目覚め、仕事や人生の知恵を求めて真剣に書物と向き合うようになったきっかけは何だったのだろうか。

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本との出合いにもタイミングがある

——堤社長は、読書から得た学びを仕事や人生に生かしてこられたと伺っています。

:子供の頃からいろんな本を読んできましたけれども、いまはその頃のように、ただ好きな本を読んで楽しむといった読書とは全然違うものになっていますね。私の場合、地方の合弁会社への出向を終え、東京へ戻ってきた40代半ばから仕事や人生の知恵を求めて真剣に本を読むようになりました。
その頃から、読んだ本をこんなふうに手帳に記録しているんです。2002年が48冊。その後67冊、177冊、143冊、146冊と増えていって、コロナで自宅にいることの多かった2020年には292冊読んでいます。

——多忙な社長業の合間に、随分たくさん読んでおられますね。

本を読むのは、主に片道1時間の通勤電車の中です。大体2日に1冊くらいのペースで読んでいますが、これだと思った本は付箋ふせんを貼りながら何度も繰り返し読みます。特に2007年に取締役総務本部長になり、社員教育に携わるようになってからは、読書に対する真剣味も随分増してきたように思います。
当社には「企業は人だけ」という考えがありましてね。提供する商品やサービスも大切ですが、それにも増して当社は人が大事で、人がすべて。では人の気持ちを一つにするにはどうすればよいか、拠り所を求めて本を手にするようになったのです。
『致知』と出合ったのもその頃でした。

——『致知』は14年半も読み続けてくださっていますが、どこに魅力を感じておられますか。

きょういただいた「学を為す、ゆえに書を読む」というテーマもそうですが、毎回の特集テーマがいいですね。そして、自分では到底辿たどり着けないような知見の持ち主が次々登場されるのもすごい。記事を読んではら落ちしたら、すぐ実行するように心掛けています。
人との出会いもそうですが、やっぱり本にも出合うべきタイミングというものがありますね。イケイケどんどんで仕事をしていた頃には、本なんかほとんど読みませんでしたから(笑)。必要と思わなかったんです。その頃『致知』と出合っていても、たぶんしっかり受け止めることができずに、スルッと取り落としていたことでしょうね。

紀文食品社長

堤 裕

つつみ・ひろし

昭和31年静岡県生まれ。55年慶應義塾大学経済学部卒業、紀文(現・紀文食品)入社。取締役総務本部長、常務取締役マーケティング室長、取締役兼専務執行役員秘書室長などを経て、平成29年社長に就任。