2024年2月号
特集
立志立国
一人称
  • 幣立神宮名誉宮司春木伸哉

甦れ、日本の心

国内外から多くの参拝者が訪れる熊本県の幣立神宮。名誉宮司の春木伸哉氏は、すべてを自らの責任と捉えて行動する神道の精神に、いまこそ立ち戻らなくてはいけないと説く。神道を紐解く中で見えてくる日本のあり方と私たちが歩むべき道とは。

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人類和合の五色神面

私が名誉宮司としてお仕えする幣立へいたて神宮は〝九州のへそ〟とされる阿蘇外輪、熊本県上益城郡山都かみましきぐんやまとちょうの山中に位置します。

当神宮の歴史は悠久なる神話の時代にさかのぼり、それを象徴するのが境内にそびえ立つひのき天神木てんじんぼくです。10世紀に書かれた縁起書によりますと、この巨檜に神漏岐かむろぎ神漏美かみろみの二神がご降臨になり、天照大神あまてらすおおみかみ天岩戸あまのいわとからご帰還になった後、天神木におしずまりになったとされています。

太古の神々(人類の祖先)は、大自然の生命と調和する聖地としてここに集い、神々にとって幣立の地は天地・万物の和合する生命の源、祈りの場でもありました。と同時に、人々にとっても神々への感謝を捧げる祈りの場となり、それは連綿と今日に受け継がれています。

阿蘇外輪の豊かな森林と水に守られた壮大なご神域は、参拝に訪れる人々の心をやし、ことに近年、神道の始まりを体感できる地として国内はもとより、世界から多くの人たちが訪れるようになりました。「大宇宙大和楽だいわらく」という詩人・坂村真民しんみん先生の詩の言葉もここで生まれました。

私は当神宮にお仕えして60年以上になりますが、もともと宗教とは無縁な家庭に生まれました。昭和33年に大学を出て熊本県内の小中学校で教師をしていた25歳の時、代々幣立神宮の社家を務める春木家の婿養子となりました。

先代の春木秀映しゅうえい宮司の姿を通して神官として歩む厳しさを教えられ、神社の歴史、国の歴史、祖先の歩いた道を学び、諸々の神事を執り行う中で、国や人々のあるべき姿が見えてきたのです。

奉職する中で当神宮には人智では計り知れない様々な不思議があることを知りました。その一つが「五色神面ごしきしんめん」の存在です。赤色、白色、黄色、黒色、青色の五色の面で、それぞれに材料も異なります。いつ、誰が奉納したのか科学的に実証するすべはありませんが、人種、民族の祖神をそれぞれの肌の色で表したものです。

先代宮司の頃、お面の研究で知られる大学教授が当神宮を訪れて五色神面をご覧になり、「これらは日本の神社で奉納される神楽かぐらめんとは明らかに違う。黒色面の材料はアフリカ、赤色の面はアメリカにある材料を用いたのではないか」と話されたと聞いています。

あるいは遠い昔、世界の国々から霊格の高い人々がこの地に集まり、神の言葉を聞き、人種の違いを超え共に生きるという願いを込めて奉納したのでしょうか。いずれにしても五大人種がお互い認め合い助け合う世界を建設するという祈りがそこに込められていることは間違いありません。毎年8月23日に挙行される五色神祭は、狭い境内がたくさんの人で埋め尽くされます。

当神宮の神代からの祈りこそ、世界の平和、人類の和合という今日の全地球的願望であり、これから人類が進むべき道しるべになるものと思います。

幣立神宮名誉宮司

春木伸哉

はるき・しんや

昭和12年熊本県生まれ。熊本大学教育学部卒業後、県内の公立小中学校に勤務。平成2年から校長を務める。11年幣立神宮宮司に。著書に『神を受け継ぐ日本人』(徳間書店)『青年地球誕生』(春木秀映氏との共著/明窓出版)など。