2024年2月号
特集
立志立国
一人称
  • 第29代航空幕僚長田母神俊雄

日本よ、
真の自立を実現せよ!

かつて世界の経済を席巻した日本のGDPが、ドイツに抜かれ4位に後退した。我が国の衰退ぶりを象徴する出来事と言えよう。折しも国外各地では戦禍が広がり、日本を取り巻くアジアでも緊張は高まりつつある。この困難な状況下で、日本はいかに活路を見出せばよいのだろうか。航空自衛隊の最高幹部を務め、国の実情や国際情勢を熟知する田母神俊雄氏が提示する、我が国の真の自立を実現するための処方箋。

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戦いを避けるリーダーは国民を幸せにしない

いま、日本は「衰退途上国状態」にある。

長らく世界第2位を維持していたGDPは、中国、ドイツに抜かれていまや4位に後退し、いずれ世界一になるといわれていた一人当たりGDPに至っては、31位にまで下落。国際社会における日本の国力が沈下の一途を辿たどる中、1964年の東京オリンピック後30年で約8.5倍まで上昇したサラリーマンの給料は、バブル崩壊後30年以上も上がっていない。

政治の責務は、国民を幸せにすることである。しかし、いまの日本の政治は経済的豊かさを実現できておらず、国民を幸せにしていないのである。

国民が幸せになるためにはもう一つ、政治的自由が保障される必要がある。ところが最近は、大多数の人の行動に大きな制約がかかるのもいとわず、特定の人の権利に過剰に配慮する法案がまかり通り、それに異論を唱えればたちまち「差別だ」とるし上げられる。言論の自由がどんどん失われ、極めて生きづらい世の中になりつつある。行き着く先は独裁体制だが、徐々に徐々にそこへ向かっているために大半の人はその危うさに気づかないでいる。

こうした風潮の背景にあるのは、戦いから逃げている国のリーダーたちの存在である。攻撃されるのを恐れて正論を堂々と主張せず、揚げ足取りのようなまつな批判にもすぐに頭を下げてしまう。腰の退けたリーダーは、国民を決して幸福にしないことをまず指摘しておきたい。

その上で、衰退の根本にある問題として認識しておかなければならないのは、いまの日本がアメリカに国を守ってもらっていること、国家として真の自立を果たしていないことである。

現在、日本の自衛隊の主要な兵器はすべてアメリカ製である。したがって、アメリカにへそを曲げられたら、自衛隊はたちまち戦力を発揮することが困難になる。日本は外交交渉の場でアメリカの言うことを聞かざるを得ず、国家としてとても自立した状態にあるとは言えない。

国家の自立とは、即ち軍の自立である。軍事力を他国に握られた状態では、決して対等にはなれない。軍が自立して、初めて国家が自立できることに気づいている政治家が、いまの日本にほとんどいないことに私は強い危機感を覚えるのである。

第29代航空幕僚長

田母神俊雄

たもがみ・としお

昭和23年福島県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊入隊。航空幕僚監部装備部長、統合幕僚学校長、航空総隊司令官を経て、平成19年第29代航空幕僚長に就任。20年退官。現在は危機管理、政治、国際情勢分析の専門家として、講演、著作活動を行う。著書に『大東亜戦争を知らない日本人へ』(ワニブックス)『国家の本音』(徳間書店)など。