2020年2月号
特集
心に残る言葉
インタビュー②
  • 牧師、人生やり直し道場理事長鈴木啓之

万事働きて益と為す

穏やかな笑みを絶やさず、人生のやり直しを願う人々のために尽力する牧師・鈴木啓之氏。驚くべきことに、その前身はヤクザであったという。様々な反社会的行為に手を染め、命の危機に瀕するまでの奈落を彷徨った鈴木氏は、いかにして劇的な回心を遂げたのか。その波乱に満ちた道のりを振り返っていただいた。

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入れ墨に覆われた体で

——鈴木さんは、牧師として人生のやり直しを願う人々の支援に尽力されていますが、以前はまったく違う世界におられたそうですね。

罪深い人生を歩んできました。高校を退学になってヤクザの世界に身を投じ、様々な罪を犯して刑務所に二度入りました。小指はご覧の通り2本ともありませんし、上半身は入れ墨で覆われています。賭博とばくで億単位の借金を抱え、組から命を狙われていたこともありますから、いまこうして生きていることすら不思議なくらいなんですよ。
私はこうした恥ずかしい過去を、本や講演などで包み隠さず告白しています。それは、こんな自分でも人生をやり直せた事実を、いまどん底を彷徨さまよっている人にぜひとも知ってほしいからなんです。

——やり直しの支援というのは、どのようになさっているのですか。

本気でやり直したいと願う人に、そのきっかけを提供することをテーマに活動しています。
私が回心を果たした後にこの千葉県で開拓させていただいたシロアムキリスト教会で、平成21年に「人生やり直し道場」というNPOを立ち上げて、借金や薬物、法的な行き詰まりや家庭内のめ事など、様々な問題を抱えた人の相談に、専門家の方々の協力も仰ぎながら応じています。26年にはある経営者の方から熱心なご依頼をいただいて、北海道のすすきのに「平成駆け込み寺」を立ち上げて同様の活動を行っています。

——なぜ、こうした活動をなさっているのですか。

過ちを犯して行き場を失った人が、門を叩ける場所の必要性を身をもって痛感しているからです。
平成11年に池袋で起きた通り魔殺人事件の犯人に、私は事件の数年前にアメリカで会っているんです。現地で知り合いの牧師のケアを受けていた彼に、「日本に帰ったら必ず来いよ」と声を掛けておいたんですが、彼が帰国した時に私は不在で連絡を受けられなかった。もしあの時彼に会うことができていたら、状況は変わっていたかもしれないと思うと、残念でなりません。
ある20代の子は、死に場所を求めて旅に出て、たまたますすきのの「平成駆け込み寺」を知って訪ねてきました。2時間くらい話をしたら突然泣き出してかばんから包丁を出し、「この包丁で死ぬつもりでした」と。一つ間違っていたら、何らかの事件を起こしていたかもしれません。
私はそういう体験を通じて、出会うことの大切さ、出会いの中に隠されている何かに気づくことの重要性を強く実感しているんです。

牧師、人生やり直し道場理事長

鈴木啓之

すずき・ひろゆき

昭和30年大阪府生まれ。高校中退後、ヤクザの世界に身を投じる。その後、博打による多額の借金を抱えて逃亡。回心の末に神学を学び、平成7年千葉県にシロアムキリスト教会を開拓。16年より府中刑務所教誨師。21年NPO法人人生やり直し道場設立。26年札幌にシロアムキリスト教会・平成駆け込み寺を開設。現在はふるさと志絆塾塾長も務め、国内外の青少年育成のための活動に尽力。著書に『誰だって人生をやり直せる』(飛鳥新社)『イレズミ牧師のどん底からの出発法』(講談社)など。