2020年2月号
特集
心に残る言葉
インタビュー①
  • てんぷら近藤店主近藤文夫

てんぷらの一道を
〝夢心〟で歩み続ける

池波正太郎や山本健吉、土門拳など、各界一流の食通たちの舌を唸らせ、2019年10月にはてんぷら職人として初となる「現代の名工」に選出された「てんぷら 近藤」店主・近藤文夫氏。72歳になるいまなお、人々を感動で笑顔にする最高のてんぷらを求め、現場の第一線に立ち続ける近藤氏に、人生・仕事の要諦、心の支えにしてきた言葉を語っていただいた(写真:東京・銀座にある「てんぷら近藤」にて)。

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本物のてんぷらを次世代に伝える

——この10月、近藤さんはてんぷら職人としては初となる「卓越した技能者(現代の名工)」に選出されましたね。

「現代の名工」は都道府県知事や業界団体、一般の方の推薦で選ばれるんです。ただ、私には業界団体などの推薦で選ばれるのは何か違うという思いがありましてね、「自分にそういうものは必要ありません」と一度は断った。
でも、私は今回、有力者や団体の力は一切なしに、お店に食べに来てくれた一般の方が推薦してくださったことで選ばれました。だから、胸を張って「現代の名工」をいただくことにしたんです。
それにてんぷら職人として初めて選ばれれば、同じ道を志す若い世代に目標をつくってあげることになる、それが自分の仕事だという思いもありました。そうしたことでなければ断っていました。

——近藤さんは、培ってきたてんぷらのたくみの技の数々を本や「YouTube」の動画などですべて隠すことなく公開してきましたね。

例えば、海外では寿司でもなんでも、いろんなやり方になっちゃっているでしょう? それは我われ日本人がちゃんとつくり方の基礎を公開してこなかったからですよ。てんぷらもちゃんと教えなかったら、めちゃくちゃなものになって何が本物か分からなくなってしまう。だから、てんぷらの発展のためにも、私には技術を隠すという発想はないし、お店の看板を守ろうという思いもない。
平成3年に独立してこのお店を始めた最大の理由も、当時、てんぷらは油っぽくて値段も高いという意識が強く、あまりに人気がなかったからです。なので、うちの店では、若い人にも本物のてんぷらを食べていただけるよう値段もそんなに高くしていません。とにかく私は、てんぷらの素晴らしさを多くの人に知ってほしい、お客さんに喜んでほしいという思いでここまでやってきたんですよ。

てんぷら近藤店主

近藤文夫

こんどう・ふみお

昭和22年東京都生まれ。41年高校卒業後に「山の上ホテル」に入社し、「てんぷらと和食 山の上」に配属。23歳で料理長に就任。以後、21年間料理長を務め、平成3年に独立、銀座に「てんぷら近藤」を開店。同店は「ミシュランガイド東京」で、11年連続で二つ星に輝く。令和元年卓越した技能を持つ「現代の名工」に、てんぷら職人として初選出。著書に『天ぷらの全仕事 「てんぷら近藤」の技と味』(柴田書店)などがある。