2024年5月号
特集
まずたゆまず
インタビュー③
  • 狂言師茂山千三郎

狂言の力で日本に
活力を取り戻す

江戸時代から続く名門に生まれながら、〝フリーランス狂言師〟として従来の枠に囚われない活動で狂言の新たな可能性をひらいている茂山千三郎氏。3歳の初舞台から50年以上狂言の一道を倦まず弛まず歩んできた千三郎氏に、狂言が秘める力、そこから見えてくる古来日本人が大事にしてきた生き方についてお話しいただいた。

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フリーランス狂言師として新たな道を切りひらく

──千三郎さんはどの一門にも属さない〝フリーランス狂言師〟として幅広い分野でご活躍です。

狂言の世界には、他の伝統芸能と同じで流儀、一門という枠があるんですね。私の場合は江戸時代初期から続く茂山千五郎家の一門になります。まあ、芸能界でいう事務所みたいなものです。
フリーランスになれば、一門を通じた仕事は来なくなるわけですが、狂言は一門の中で2、3人のチームを組んで公演を行いますから、本来はフリーランスでの活動はあり得ないことなんですよ。
でも私は、いろんな分野の方とご縁をいただく中で、一門の役者とばかりやっていてよいのだろうか。ほとんどの日本人が狂言を見たことがないという時代になっている中で、狂言のあり方はこのままでよいのだろうかという思いが年々強くなっていきましてね。
ただ、新しい取り組みをするにしても、一門にいては迷惑が掛かる。であれば、フリーランスになろうと、2020年12月31日をもって茂山千五郎家を離れたんです。56歳の時でした。
事情があって一門を離れざるを得なかった人は過去にもいたかと思いますが、自らの意志でフリーランスになった狂言師はおそらく私が初めてだろうと思います。

──しかし、フリーランスでは大変なことも多いのではないですか。

最初は人を雇う余裕はありませんから、自分で自主公演を企画し、共演してくださる狂言師に声を掛け、案内状に切手をって発送して、けいもして……というように、完全に一人で全部やらなくてはいけなくて大変でした。
ただ、従来は一門に頼んで決めていたのが、フリーランスであれば、自分が共演してみたい狂言師に声を掛け、自分の好きな作品を演じることができる。これにはモチベーションが上がりました。

──フリーランスならではのやりがい、おもしろさを実感された。

例えば、2023年6月に東京で開催した自主公演「三ノ会」では、尊敬する和泉いずみ流の野村万作先生にお願いし、「月見座頭」を演じました。万作先生は和泉流で私は大蔵流ですから、同じ作品でも台本から型まで違うわけです。お稽古でそれぞれの違いをり合わせながら、一つの舞台を創り上げていく中で私自身すごく刺激をいただきましたし、その舞台ならではのこだわりもできました。
もちろん、気心の知れた一門の役者とうんの呼吸で演じるのは安心ではありますが、異なる流儀の方と共演することで、いままでになかった演出、緊張感やおもしろさを生み出せたのではないかと思っています。やはり新たな出会いから創造性は生まれるんです。

狂言師

茂山千三郎

しげやま・せんざぶろう

昭和39年生まれ。祖父・三世茂山千作(人間国宝)、父・四世茂山千作(人間国宝)に師事。3歳「業平餅」の童にて初舞台。50か国に及ぶ海外公演、他分野とのコラボレーション、演出家としても活躍。平成26年「京都府文化賞功労賞」受賞。令和3年茂山千五郎家から独立。フリーランス狂言師として、自主公演「三ノ会」や狂言に伝わる教えをもとにした健康メソッド「和儀®」の普及など、従来の枠に囚われない活動に取り組んでいる。