2024年5月号
特集
まずたゆまず
インタビュー2
  • 書家、正筆会会長黒田賢一

書こそ我が人生
命ある限り歩み続ける

かな書道の名門・正筆会の会長を務める黒田賢一氏。22歳という若さで日展に入選するなど早くから頭角を現してきた現代かな書道の第一人者である。師・西谷卯木氏との邂逅と別れをはじめ書家としての転機を交えながら、60年以上に及ぶ書家人生を振り返っていただいた。

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かな文字の魅力を伝え続けて

──東京・銀座で開催されている作品展(正筆会せい書作展)に伺いましたが、多くの来場者で賑わっていますね。

ありがたいことにきょう一日だけでも900人ほどがお見えになりました。書の作品展としては多いほうでしょうね。正筆会には神戸を拠点に全国に3,000人以上の会員がいて、皆さんのせったくの場として神戸や東京でこのような作品展を毎年開催しています。
当会は、日本藝術院会員で文化功労者でもいらした書家・あんどうせいくう先生によって約100年前に設立されました。それまでは書というと3,000年以上の歴史がある漢字がもっぱらでしたが、安東先生は日本古来の美しいかな文字を愛好し、それを芸術にまで高めたいという思いでこの会を立ち上げられました。かな書道では日本で最も歴史ある団体なんです。

──書の研究のり所は古典に求められるのですか。

はい。私たちは古典主義を大変重視しています。かなの場合は平安時代の貴族文化の中で書かれた『古今和歌集』『万葉集』などの筆文字が現存しています。これら原寸大の古筆こひつを手本に繰り返し臨書りんしょすることによってかな文字の基本ができる。その上で自分の型というものをつくり上げていくわけです。
つまり、単に古筆を継承するということではなく、いかに芸術として昇華させていくか。そのことを皆意識しながら、日々の鍛錬に励んでいるんです。
私の場合で申しますと、ライフワークである『せきぼんきんしゅう』や『いちじょうせっしょうしゅう』などのかなの臨書を続けながら創作に取り組んでいますが、壁面の大きな作品をつくろうとすれば、かなにはない線の強さがどうしても求められる。そこで中国・しん代のおう羲之ぎしそう代のべいふつといった書家の漢字を取り入れながら、かなの魅力がより浮き立つよう工夫しています。

──地道な努力が求められる世界ですね。

そうですね。家にいる時は最低でも2、3時間、時によっては気がつくと夜中の2時くらいまで筆を握り続けていることもあります。さすがに80歳近くなりましたので、若い頃のように徹夜で創作に励むことはなくなりましたが、書ざんまいの生活であることは若い頃からまったく変わりません。

書家、正筆会会長

黒田賢一

くろだ・けんいち

昭和22年兵庫県生まれ。10代でかな書家の西谷卯木に師事し、22歳で日展初入選。44歳でかな書道研究会・正筆会理事長となり、以降兵庫県書作家協会会長、正筆会会長、日展理事などを歴任。日展では2度特選を受賞した他、『静寂』で内閣総理大臣賞、『小倉山』で日本藝術院賞を受賞した。日本藝術院会員、文化功労者。