2021年2月号
特集
自靖自献じせいじけん
インタビュー③
  • トリドールホールディングス社長兼CEO粟田貴也

人々の感動と喜びの創造が
企業を繁栄に導く

厳選した素材を使用した、打ちたて・茹でたての本格讃岐うどんを提供する「丸亀製麺」。現在、国内約850店舗、海外にも約230店舗を展開し、コロナ禍でも客足が途絶えることがない人気店だ。しかしそこに至るまでには数々の試行錯誤と逆境があったという。丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスの粟田貴也社長兼CEOに、これまでの歩みを交え、人々の喜びを創造し、企業を繁栄発展に導く要諦をお話しいただいた。

この記事は約14分でお読みいただけます

変化を恐れずピンチをチャンスに

——新型コロナウイルスの感染拡大により、とりわけ外食産業は大きな影響を受けていますが、御社が展開する讃岐さぬきうどん専門店の「丸亀製麺まるがめせいめん」は、いち早く業績を回復させて話題になりました。

このコロナはとにかく全世界的な状況ですから、まず何より現場の社員、お客様の健康を第一に考えました。5月上旬からはCMの内容を、店内の消毒・換気といった感染症対策をしっかり実施していることをお伝えする内容に切り替えました。これがお客様の安心につながったのだと思います。
ただ、3月頃までは売り上げも堅調だったのですが、やはり緊急事態宣言が出された4月、5月はお客様がぐんと減って、非常に厳しい状況に立たされました。もしもの場合に備え、金融機関とも資金面について相談をしました。
5月末に緊急事態宣言が解除されたことで、少しずつお客様が戻ってきてくださり、何とか先が見えるようになった、暗闇から少し抜け出せたという感じですね。現在も、まだ危機を乗り切ったといえる状況ではとてもありません。

——未曽有みぞうの危機に直面する中で、経営者として特に大事にしていること、心構えなどはありますか。

社員に対しては、まず「現状を共有する」ことが何より大事だと思ってきました。単に「大丈夫だ」と安堵あんどよそおっていても仕方がないですから、現状の厳しさを社員に隠さず共有して、先ほどのCMではないですが、これからどうしていくのか、その対策や方向性を打ち出し、現場ともり合わせをする。これは経営者としてしっかりやってきたつもりです。

——社員と現状を共有し、進むべき方向性をしっかり定めると。

それに、私たちはこれまでにも何度も経営のピンチを経験して、その度に業態を変える、変化を遂げてここまで歩んできたんですね。ですから、今回のコロナ禍でも、我が社は間違いなく何らかの変化を遂げ、ピンチをチャンスととらえ、必ずこの危機を乗り越えられるはずだという信念は常に持って経営に当たってきました。
後で詳しく話しますけど、例えば、焼き鳥店の業態に力を入れていた2003年頃は「鳥インフルエンザ」が大流行し、まさに絶望の極致、目の前が真っ暗な状況でした。それでもどうすれば乗り越えられるだろうかと、あきらめずに一所懸命、無我夢中で仕事に取り組んでいったことで、結果的に焼き鳥からうどん、現在の丸亀製麺の業態に大きく方向性を変え、活路を見出すことができたんです。
そういう意味では、我が社の社員の柔軟性というか、機動力、瞬発力、新しいことにトライする精神というのは素晴らしいなと。それがなかったら、我が社はとっくになくなっていると思います。

——環境の変化を恐れず柔軟に対応していく。それが会社の発展・永続のかぎを握っているのですね。

実際、現在もこれまで一切やったことのなかった「うどんのテイクアウト」に全社一丸となってトライしているところです。コロナ禍で世の中は変わるんだ、だったら自分たちもそれに合わせて価値観を変えていこうよって。
これはコロナ禍をやり過ごすための一時的な施策のように見えるかもしれません。しかし、私はコロナ禍に関係なく、我が社が商品のお持ち帰りも含めた新しい業態へと変化を遂げている、そういうふうに前向きに捉えています。
やっぱり、ピンチの時だけに限らず、常に高い目標を掲げ、全社員で知恵を絞り、無我夢中で目の前の課題に取り組み、新しいことにチャレンジしていく。その結果として予期せぬ財産が生まれ、会社の新たな成長がまたそこから始まっていくと思うんです。

トリドールホールディングス社長兼CEO

粟田貴也

あわた・たかや

昭和36年兵庫県生まれ。神戸市外国語大学中退。60年焼き鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業。平成12年「丸亀製麺」を立ち上げ、18年に東京証券取引所マザーズ市場に上場、20年に東京証券取引所第一部に上場。令和2年「第3回日本サービス大賞」(主催:公益財団法人日本生産性本部サービス産業生産性協議会)、外食業界では初となる「ポーター賞」(主催:一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)を受賞。