2018年7月号
特集
人間の花
インタビュー①
  • 北洋建設社長小澤輝真

誰もが立ち直る力を
持っている

これまで500人を超える受刑者を雇用し、2割以下という全体的にも極めて低い再犯率で、その多くを社会復帰させてきた北海道札幌市の北洋建設。「罪を犯した者ほど真剣に働く」という信念のもと、40年にわたって受刑者たちと向き合ってきた北洋建設の3代目社長・小澤輝真氏に、波瀾に満ちた人生とともに、受刑者の雇用に懸ける思いを伺った。

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500人を超える受刑者を雇用

——小澤さんが社長を務める北洋建設は、日本で最も多くの受刑者を雇用しながら、再犯率も非常に低いと伺っています。

当社はこれまで全国から500人以上の受刑者を雇用してきましたが、日本の出所者の再犯率が約48%(平成28年版『犯罪白書』)なのに対し、当社では2割以下となっています。法務大臣から感謝状もいただきました。

——すごいですね。何か特別な取り組みをされているのですか。

実際の採用では、まず刑務所に出している当社の求人を見た受刑者、刑務所や弁護士から電話や手紙が届きます。その内容を考慮して、犯した罪への反省が伝わってくれば、私が刑務所まで出向いて面接をし、手紙のやり取りなどをしながら、採用するかどうかを決めていきます。先月も山口県の刑務所まで行きましたし、来月は福井県に行く予定です。
2015年以降は、法務省から補助金が出るようにはなったんですが、それまでは全部自腹。いまもたまに予算が切れて自腹で行きます。自分の土地を売ったりしながら採用しています。これまで受刑者の採用にかかった費用は2億円ほどになっているでしょう。

——2億円ですか……。

いざ採用するとなれば、札幌までの交通費に始まり、彼らの着替えや建設業に必要な道具まで全部買ってあげ、私が身元引受人となって3食付きの寮にも入ってもらいます。もろもろの経費を合わせると、一人の採用に約40万円かかる計算です。
受刑者が当社に来た時には歓迎会を開いてあげ、その後も私がなるべく一緒に食事をする、不平不満を聞いてあげるなどして、とにかく孤立させないことを心掛けてきました。社員を銭湯に連れて行って話をすることもあります。

——なるほど、孤立させない。

あと、本人が「もうりません」と言うまで毎日2,000円札を渡すんです。お金を持っていれば心に安心と余裕が生まれ再犯が激減します。特に少年院から来た子は、初めて2,000円札を見るのでそれが欲しくて仕事を頑張りますし、お店などで珍しい2,000円札を使うと、店員の印象にも残るので、彼らも悪さができません。

——そうした取り組みが、低い再犯率につながっているんですね。

もちろん、中には仕事の途中でいなくなってしまう社員もいますし、私はやりたい仕事があればどんどん他に移っていいというスタンスなので、自分の道を見つけて発展的に退社したり、土木技術を身につけて故郷に帰ってしまう社員もたくさんいます。500人を雇用してきたといっても、いまの社員数は約60人で、そのうち受刑者は17人しかいません。
それでも一人の受刑者、一人の加害者を雇用すれば、イコール被害者がいなくなるとの思いでやってきました。受刑者の中には「オレオレ詐欺」をしていた者もいますが、その一人を雇用すれば、詐欺に遭う可能性のある被害者を何人も守ることに繋がるんですよ。

——加害者を雇用することは、被害者を守ることにも繋がると。

そして前科があるといっても、いろいろ事情があり、皆が悪いというわけではないんです。
いま寮長を務めている社員には窃盗・詐欺の前科があります。でも、彼はもともと大手飲食店の店長をしていて、その後、引き抜かれた飲食店で何か月も給料を払ってもらえなかった。それで家賃を払えなくなって、やむを得ず出前の集金で集めたお金で支払ったら逮捕されてしまった。別の社員はやくざの会社を辞めるために、やむを得ずATMを壊し、警察に自首することで辞められた。彼らは許してあげられるでしょう?
ですから、うちで採用している受刑者はよい人ばかりです。社会的に犯罪を起こさざるを得なかっただけで、皆本心から立ち直りたいと思っているんですね。生活できる仕事さえあれば人は再犯しませんし、罪を犯した者ほど真剣に働くというのが私の信念です。

北洋建設社長

小澤輝真

おざわ・てるまさ

昭和49年北海道生まれ。平成3年父の急逝を受け、家業の北洋建設に入社。26年より現職。受刑者雇用の実績が高く評価され、皇室より「東久邇宮文化褒賞」「東久邇宮記念賞」、法務省より「法務大臣感謝状」、札幌市より「安全で安心なまちづくり表彰」など受賞多数。