2026年9月号
特集
めざすものを持つ
対談
  • フォーバル会長大久保秀夫
  • 比叡山延暦寺観明院住職宮本祖豊

経営と修行に
通底するあり方

経営者と僧侶──歩んできた道は違えども、フォーバル会長の大久保秀夫氏と比叡山延暦寺観明院住職の宮本祖豊氏は、共に20代で志を抱き、数多くの困難や逆境に立ち向かい、精神を鍛え、秘めた可能性を引き出し、人格の完成と縁ある人々を幸せに導くことをめざす点で共通している。さらには60代でそれぞれ脳梗塞と末期がんという試練に直面しながらも、決して屈することなく、いまなお前進を続け、感謝と反省の日々を送っているという。そんなお二人の求道者の生き方に学ぶものは多い。人間学の真髄ここにあり──。

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    フォーバル会長

    大久保秀夫

    おおくぼ・ひでお

    昭和29年東京都生まれ。52年國學院大學卒業後、婦人服メーカー、外資系教材販売会社を経て、55年25歳で新日本工販(現・フォーバル/東証スタンダード市場上場)設立、社長就任。63年日本最短記録、史上最年少(共に当時)で店頭登録銘柄として株式を公開。平成22年より現職。著書多数。最新刊に『絶対つぶれない会社をつくる方法』(致知出版社)。

    比叡山延暦寺観明院住職

    宮本祖豊

    みやもと・そほう

    昭和35年北海道生まれ。59年出家得度。平成9年好相行満行。21年比叡山で最も厳しい修行の一つである十二年籠山行満行を果たす(戦後6人目)。比叡山延暦寺円龍院住職、比叡山延暦寺居士林所長などを経て現在は観明院住職、延暦寺別当大師堂輪番を務める。著書に『覚悟の力』、最新刊に『積徳のすすめ』(共に致知出版社)。

    『致知』を通じて結ばれたご縁

    宮本 大久保会長、お久しぶりでございます。

    大久保 宮本先生、こんにちは。お元気そうですね。ご体調はいかがですか。

    宮本 ぼうこうがんにかかってもう6年になりますけれども、膀胱がんは他のがんに比べて標準の抗がん剤の種類が少なく、いずれは効く薬がなくなるだろうと分かっていました。そこで3年くらい前にアメリカのゲノム検査を受けまして、AIでもって私の体に合う抗がん剤を探してくれましてね。実際に効き目があって腫瘍しゅようが小さくなり、いまも治療を続けています。

    大久保 それは何よりです。まさにAIの力、恐るべしですね。

    宮本 こんなところでお世話になると思っていませんでした(笑)。

    大久保 宮本先生とご縁をいただいたのは、いまから4年前の2022年9月でした。その年の6月号の『致知』に宮本先生の記事が掲載されていて素晴らしい方がいらっしゃるなと。ぜひお話を聴きたいと思って、知人に紹介してもらったのがきっかけでした。
    実はその時に一度アポイントを取ったものの、先生が体調を崩して入院されましたよね。その後、回復なさったというので私が主宰する経営者の会の会員と共に伺い、えいざんからほど近い琵琶湖のほとりにあるホテルで、講義と質疑応答を含めて2時間くらいお話を頂戴しました。きょうと同じように健常者以上に元気いっぱいで、「本当にがんなのかなぁ、この先生は」と驚いたんですね(笑)。

    宮本 企業の方から講演依頼をいただくことは時々あるのですが、トップ自らがインタビュアーとなって質問をたくさん出してくれるというのは滅多めったにない。その点からしても、大久保会長は前向きでバイタリティのある方だなと非常に感銘を受けました。

    大久保 初めてお会いして感じたのは人間としての迫力や深さです。どんな質問も的確に答えてくれるんですね。頭脳めいせきな方だと思いました。しかも一切迷いがない。普通の人はちょっと考え込むんですけど、先生はかんはつれずに即答される。さすが厳しい修行を積み重ね、12年ろうざんぎょうを満行された名僧は違うなと驚嘆しました。

    問うべきはやり方ではなくあり方

    宮本 先だって大久保会長が致知出版社からじょうされた『絶対つぶれない会社をつくる方法』を読ませていただき、感激いたしました。大久保会長が提唱されている王道経営について、ご自身が経験し、実践されたことが書かれており、人間どんなに立派なことを言っても、やっぱり実践しなきゃいけないとの思いを新たにしました。

    大久保 実践することはとても重要です。ただ、一般的には何でもHow to do、やり方ばかりを求めるんですね。How to be、どうあるべきかというあり方は軽視されている。経営でもどうやって市場を開拓するか、得意先を増やすかということではなくて、何のために誰のために仕事をしているのかを問うべきだと思うんです。
    そこにいる社員一人ひとりのエネルギーの集合体が企業ですから、そのエネルギーをどう高めるか。そのために経営理念や事業の目的をしっかり持って、組織に浸透させていく。社員、家族、お客様といった身近な人から「ありがとう」と言われるのが一番嬉しいですし、一番心が動くんです。人間の本質は利他りたの心、人を喜ばせることだと思います。
    いまの世の中は自分さえよければいい、いまだけよければいいと思っている経営者が多い。それが日々ニュースで目にするような社会問題を起こしている。僕は経営って縁だと捉えています。人間の営みはすべて縁ですよね。
    だから、縁ある人を幸せにするために、企業の商品やサービスが存在している。皆がもう一回そこの原点に立ち返り、社会に役立つために経営をすることを一人でも多くの人に分かってもらいたいと思って、この本を書きました。

    宮本 やっぱりうまくいっている時は大事な根本をつい忘れがちになります。それを再確認することが非常に大切であり、まさにその本質を押さえてくれている本だと感じました。
    感謝という話がありましたけれども、仏道でも若い頃は自分自身の修行が中心になります。ただ、その中で目に見えない部分の神様や仏様のご加護、あるいは両親の応援、身の回りのお世話をしてくれる人たちが支えてくださっているから、修行ができるのだと少しずつ分かってくる。そういうことに感謝しなかったら、修行はできませんし、満行もできなかっただろうと思います。

    絶対つぶれない会社をつくる方法