2018年2月号
特集
活機かっき応変おうへん
インタビュー②
  • 鶴巻温泉元湯陣屋旅館女将宮﨑知子

成功の秘訣は軸をぶらさず、
変化に対応すること

2009年のある日突然、31歳という若さで10億円の借金を抱える老舗旅館の女将となった宮﨑知子さん。旅館管理システムの開発、週休3日制の導入など、既存の枠に囚われずに改革を断行し、僅か2年で黒字化を実現させた。現在、年商は就任当時の約2倍、稼働率も全国平均の約2倍に急成長している。その成功の秘訣と、危機を乗り越えてきた道のりを伺った。

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変化し続ける老舗旅館

——宮﨑さんは老舗旅館・陣屋の女将として、ITや週休3日制を導入されるなど、様々な取り組みを行っていますね。

陣屋は新宿から約1時間の鶴巻温泉にある大正時代から続く老舗旅館です。世界有数の名湯と1万坪もある森のような庭園が多くの人々に親しまれ、昭和に入ってからも皇族の方々をお迎えしたり、将棋や囲碁のタイトル戦の舞台となるなど、多くの場面でご利用いただいています。私はそんな歴史ある陣屋の女将に31歳の時に素人で就任し、2017年で9年目を迎えることができました。
陣屋は来年(2018年)100周年を迎えますが、いま最も力を入れているのが旅館業界全体の職場環境の改善です。経済産業省が毎年発表している職業別年収ランキングにおいて、サービス業の中でも特に旅館ホテル業は最下位付近にいて、これを少しでも改善したいと考えています。

——具体的にはどのようなことをされていますか?

2010年に旅館の管理システム「陣屋コネクト」を自社開発し、その導入により当社の利益率を大幅に改善することができたので、それを利用して旅館業界全体を活気づけたいと考えています。
これは予約情報や勤怠・原価の管理、売上分析・会計処理など経営管理もできるシステムで、その他にも最先端技術を組み込んで、掛かってきた電話番号や到着した車のナンバーを自動で読み取り、お客様情報を即座に把握できるようになっています。対応するスタッフはお客様の名前を呼んでお出迎えでき、また、履歴が即座に分かるので、質の高いサービスを提供することが可能なんです。

——画期的な仕組みです。

2012年からこのシステムを外販し始め、5年間で全国230社に導入いただくまでになりました。いまはその導入企業向けに旅館同士の助け合いネットワーク「陣屋EXPO」を開始しています。これは労働力や食材など、地方の中小旅館単体では解決が難しい問題に対して、全国200店舖以上あるネットワークを活用していただこうという試みです。
例えば、地域によって繁忙期が異なることを活かし、書き入れ時に人手が足りず満室にできない旅館と、繁忙期ではない旅館の社員とで研修・交流し合うことで、労働力不足を解消しつつ、社員のスキルアップに役立てています。他にも、小ロット多品種の食材を仕入れるのも中小旅館だと単価が高くなるなど苦労が多いため、陣屋で一斉に購入し、配布する制度も行っています。
こうした新たな施策が年商の22%を占めるようになったことで、就任以来、業績は2.9億円から5.6億円と約2倍に伸び、平均客単価も4万5,000円まで上昇しました。稼働率も全国平均37.8%に対し、76%となっています。

——めざましい成長ですね。その他にも斬新な働き方改革をされていると伺いました。

2014年からサービス業では珍しい週休2日制を導入し、2016年からは週休3日にしました。経緯については後で詳しく話したいと思いますが、最初の1年は売り上げが頭打ちになったものの、経費を抑えることで利益は確保でき、翌年からはお客様が都合をつけてくださるようになって売り上げは伸びました。社員も私自身も休みを取り入れたことで心身ともに健康で働けるようになったと実感しています。

鶴巻温泉元湯陣屋旅館女将

宮﨑知子

みやざき・ともこ

昭和52年東京都生まれ。平成18年結婚。21年鶴巻温泉元湯陣屋旅館の女将に就任し、以後経営改革に取り組む。年商を約2倍の5.6億円に、旅館の稼働率も全国平均の約2倍の76%と奇跡の復活を遂げた。24年陣屋コネクトの設立に寄与する。