2024年2月号
特集
立志立国
我が立志立国②
  • 空手道禅道会首席師範小沢 隆

与えられた縁の中で
各自ができることを
尽くす

日本最大規模の総合格闘技団体である空手道禅道会。その創設者である小沢 隆氏は、空手を通じた武士道精神の普及のみならず、青少年の自立支援やウクライナの支援にも力を注ぐ。その無私の生き方の背景にある思いとは──。自身の歩みを交えつつ、活動に懸ける思いを伺った。

この記事は約11分でお読みいただけます

志いかんではなく目の前のことを全力に

——小沢さんは禅道会という空手団体を創設から20年で日本最大規模の武道総合格闘技団体に育て上げる傍ら、青少年の育成やウクライナの支援にも尽力されていると伺いました。まさに今回の「立志立国」という特集テーマの実践者ではないかと考えております。

恐縮ですが、残念ながら私には立志というようなすうこうな考えがあったわけではなく、ただ目の前にあるご縁のままに動いてきたと言ったほうが正しいと思います。
ウクライナ支援を始めたのも、禅道会の支部がウクライナにもあったからです。ウクライナの会員たちは毎年日本に講習を受けにやって来るほど熱心で、自国を強くしたいという気持ちがとても強かったんです。私も何度かウクライナに足を運んで武道の普及をしていた縁もあり、今回の窮状を見過ごすことができませんでした。

——それでウクライナの支援を。

禅道会は現在、海外に30支部ありますが、中でも一番レベルの高い国はロシアなんです。随分前ですけど、ロシアの支部長からこんなことを言われました。
「この禅道会は世界中でどんどん大きな組織になるだろう。だけど、武道の礼法の精神と形は変えないでくれ」と。まだソ連の時代でしたけど、ソ連はナチス・ドイツの侵攻を食い止めるために2,000万人もの犠牲を払ったと。そんなことはあってはいけないけれど、自分が半身不随になりながらも命があり、禅道会や小沢先生と知り合ったのもこの国家主義を越えた、尊重の礼法を広めるための神様のおぼし召しだと思っていると。そう涙を流しながら語ってくれたんです。
しかしながらその両国が戦争になったわけです。私としては非常な無常観を感じずにはおれません。私たち武道家は礼の精神をもってお互いを尊敬するという教育を受けているにもかかわらず、国家単位の政策では手も足も出ない。

——やるせない思いが込み上げてきます……。

地球ができて46億年、我われが自分の意志で為せることは本当に少なく、人知を超えた計り知れない因縁によって私たちは生かされています。ウクライナ人に生まれるのも日本人に生まれるのも私たちは一切選べませんよね。そう考えると出逢った縁の中で自分の歩む道をよくしていくしかないというのが正直な気持ちです。ですから志があるとかそんな大層な話ではなく、与えられたこと、目の前のことに全力を尽くすというのが私の信条なのです。

空手道禅道会首席師範

小沢 隆

おざわ・たかし

昭和38年長野県生まれ。63年長野県飯田市に空手道場を建設し、青少年健全育成活動に取り組む。平成11年空手道禅道会を発足。日本最大規模の武道総合格闘技団体に拡大させ、幾多の名選手を育て上げる。13年NPO法人日本武道総合格闘技連盟を設立(令和元年に認定NPO法人に)。18年家庭内暴力・ひきこもり・発達障碍・精神障碍の子供たちのための自立支援・通信制高校サポート校「ディヤーナ国際学園」を立ち上げる。著書に『武道の心理学入門』『ヨガ×武道』(共にBAB JAPAN)など多数。