2024年2月号
特集
立志立国
我が立志立国③
  • バルニバービ会長佐藤裕久

食から始める
地方創再生

いまから約30年前、人通りのほとんどなかった倉庫街にレストランを開業して以来、不人気な立地を逆手に取って次々と人気店を展開し続けてきたバルニバービ。同社を率いる佐藤裕久氏が、近年心血を注いでいるのが「食から始める地方創再生」である。このプロジェクトに懸ける佐藤氏の思い、そして氏の追求する立志立国とは。

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淡路島の野原に年間35万人を呼び込む

——全国で約100店の飲食店を展開する御社が、先日新聞の全面広告で「食から始める地方創再生」を提言されていました。プロジェクトの概要や、佐藤さんの思いをお聞かせください。

きっかけは2011年の東日本大震災でした。あの時に東京一極集中のリスクを痛感し、さらに2013年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定して、ますます東京にあらゆる事物が集中して、このままでは人々の目が地方からさらに遠のいてしまうのではないかと強い危機感を抱いたんです。
幸い僕たちは、繁華街にお店を出す資金力がなかった創業期から、人のあまりいないエリアにお店を出してお客さんを集め、その一帯に賑わいをもたらしていくノウハウを蓄積してきました。いまではバッドロケーション戦略と呼んでいますが、僕たちが培ってきたこのノウハウに地方自治体の方々も関心を寄せてくださって、現在淡路島の「フロッグス・ファーム・アトモスフィア」と出雲の「ウィンディ・ファーム・アトモスフィア」という、当社のレストランやホテル、他社の飲食店なども呼び込んだ商業エリアを立ち上げて、集客や地元食材の活用などを通じた地域開発を進めているんです。
2019年に淡路島西海岸でこのプロジェクトを立ち上げるまで、そこは本当に何もない野原だったんですよ。でもおかげさまで、いまでは年間35万人の人が集まり、10億円の売り上げを上げるまでになりました。そして2023年5月には出雲にも進出して、既に年間3億円の売り上げ規模となっています。

——飲食業で培われた御社の力が、地方活性化で見事に発揮されているのですね。

食べ物屋って実は地方創再生の力がかなりあると思うんです。1つは食材を仕入れることができる。2つ目は、その仕入れ先の皆さんも利用したくなる。3つ目は、呼び込んだ方々にも商売のチャンスが生まれる。この3つのポイントから、地方創再生が非常に仕掛けやすいんです。
ただ、それだけではダメで、最終的には人がそこに住みたくなる町になることが重要だと考えています。飲食だけ、観光だけだと、日没と共に人が退いてしまう。一過性の消費で終わってしまうのではなく、そこに何かが蓄積し、熟成していくような仕掛けをしていくことに僕は興味があるんです。
ですから、淡路島では廃校になっていた学校を買い取って、無料の子供図書室の運営や様々な文化イベントを開催したり、お彼岸にお祭りを催して、地元の人、都会に出た人、そして僕ら新参者の交流も図っているんです。お祭りは最高のコミュニケーションの場で、4回目のこの間は2,500人も参加してくださいました。子供たちの元気な声が飛び交っていて、この子たちの笑顔がある限りきっと続けられる。そんな手応えを感じているんです。

バルニバービ会長

佐藤裕久

さとう・ひろひさ

昭和36年京都府生まれ。神戸市立外国語大学中退。会社勤務、アパレル会社経営を経て、平成3年バルニバービ総合研究所を設立、社長に就任。7年大阪南船場に一号店「アマーク・ド・パラディ」を開業。10年㈱バルニバービに組織変更。27年東証マザーズ市場(現・東証グロース市場)に上場。現在、全国でレストラン・カフェ・ホテルを展開する他、地方創再生プロジェクトにも取り組んでいる。