2019年7月号
特集
命は吾より作す
インタビュー②
  • 梅乃宿酒造社長吉田佳代

伝統の酒蔵に
革新の息吹を吹き込む

100年以上の歴史を刻む奈良県の梅乃宿酒造。5代目社長の吉田佳代さんは、持ち前の行動力とアイデアで、この伝統的な仕事に新風を吹き込み、業績を7倍に急伸させた。主婦、母親業をこなしながら社長として新たな道をひらいてきた吉田さんにお話を伺った。

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日本酒のおいしさをいかに若者に伝えるか

——御社は、酒造メーカーとして100年以上の歴史を刻んできたそうですね。

はい。今年、127年目に入りました。奈良は清酒発祥はっしょうの地ですが、400年を超える酒蔵さかぐらさんもたくさんありますので、100年を超えていても決して老舗しにせというわけではありません。ですから新参者の気持ちで常に新しいことにチャレンジすることを弊社のモットーとしてやってきました。
30年ほど前、先代の父が他の酒蔵さんに先駆けて精米機を導入したのもそうですね。それまで精米は農協さんなどに委託していたのですが、トレーサビリティといいますか、私たちがどのような原料を使い、どのように製造しているのかをお客様にきちんと分かっていただけるような仕組みにしなくてはいけないと先代は考えたのだと思います。

——当時として画期的なことだったのですね。

私の代になって新たに始めたことの一つに、若い人たち、特に大学生にもっと日本酒に親しんでもらえるための取り組みがあります。
若い方があまり日本酒を飲まなくなった理由として「値段が高い」「味がよく分からない」などいろいろなことが挙げられると思うんですが、本当においしい日本酒を飲んだことがないからではないかと私は考えています。飲み物でも食べ物でも、最初においしいものを口にしたら決して嫌いにはなりませんよね。
おいしい日本酒を最初に口にしてもらうにはどうしたらいいのか、考えた末に始めたのが、大学生に集まってもらって日本酒の勉強会を開くことでした。ただ「無料で試飲できます」とアピールするだけでは怪しまれるだけです。そこで細い伝手つてを頼って奈良女子大学や京都大学などの先生を紹介してもらって、授業中に日本酒の勉強会を組み込んでいただくことにしたんです。

——大学で日本酒の勉強会を。驚くべき発想と行動力ですね。

経営学部であれば「老舗企業の生き残り方」というテーマの中で日本酒の勉強会をしましたし、農学部であれば「米の6次産業化」の話をして日本酒の勉強会に移りました。それぞれの先生の授業として成り立つように、話の中身を変えるわけです。私にとってはボランティアなんですが、学生さんには「これ日本酒なん? いままで飲んだのと違う」「いい香り」など大好評で、皆さんの笑顔に接していると私も元気が出てきますし、若い方へ日本酒が広がっている手応えを感じています。

梅乃宿酒造社長

吉田佳代

よしだ・かよ

昭和54年奈良県生まれ。帝塚山大学経営情報学部卒業後、総合商社を経て平成16年梅乃宿酒造に入社。25年社長に就任。