2021年12月号
特集
死中活あり
インタビュー
  • サイゼリヤ会長正垣泰彦

最悪の時こそ最高である

国内外に1,500店舗を超え、年間来客数は2億人を上回るカジュアルイタリアンレストラン「サイゼリヤ」。2022年で開業55年の節目を迎える。創業者の正垣泰彦氏は大学4年生の時、千葉県市川市に17坪・37席の洋食屋をオープンし、そこから幾度もの危機を乗り越え、今日の発展を築き上げた。サイゼリヤと共に生きてきた半世紀を振り返りつつ、その原点にある母親の教え、体験通して掴んだ成功の法則、リーダーの心得などについて伺った。死中に活を求め、道を切り拓いてきた人物に学ぶものは多い。

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満足した瞬間から衰退が始まる

——コロナで外食産業は苦境に立たされていますが、サイゼリヤは今期の通期予想によると前期比で業績が回復する見通しで、健闘されていますね(10月13日決算発表=売上高1,265億円、経常利益34億円)。

コロナ禍って確かに営業時間が短くなったり売り上げが下がったり、いろんなことが起こるでしょう。だけど、創業期に何をやってもお客さんがまったく来なかった時のほうが、よっぽど経営は大変でした。その頃に比べたら大した苦境ではないと思っています。
一つ意識してきたのは、資産と人財を蓄積すること。創業間もない頃、この会社を将来どうしていくかって自分で考えた時、小さいなりに、資産と人財を集めていればどんな危機が来ても乗り越えられると思って、資産と人財を蓄積することをずっと目標にしてきました。その積み重ねがあったからこそ、堀埜ほりの社長体制の下、テイクアウトや宅配サービスを新たに導入したり、様々な感染対策を打ち出すことができています。

——将来の危機を見据えて備えをおこたらなかったと。

うまくいかない、思い通りにならない、それが人生ですよね。つまり失敗することが前提にあるわけです。失敗して失敗して失敗すると、最後は成功にぎ着く。人間ってうまくいくとダメになっちゃうんですよ。エントロピーの法則(物事は放っておくと無秩序な状態に向かい、自発的に元に戻ることはない)と同じで、これでいいと満足したところから進歩はなくなってしまう。
大学で物理の勉強をやっていたんですけど、量子力学によれば、この世に存在するすべてのものはエネルギーでできています。エネルギーって何かというと、中心がなくてみんなとつながって、よりよい調和に向かって永遠に変化し続けている。ただこれだけなんです。「俺はすごいだろう」なんて有頂天うちょうてんになると自分中心になっちゃう。こういう人はエネルギーの法則に反するから落ちぶれていく。

サイゼリヤの看板商品「ミラノ風ドリア」

同様に、自分の店の料理をおいしいと思った瞬間から衰退が始まってしまう、とよく言うんです。常にこれ以上のものはないと思って料理をつくってお客さんに提供する。だけど、その直後からは、もっとおいしいものは出せないかと考えて創意工夫する。その繰り返しです。

——道の追求に終わりはない。

例えば、年間販売数約7万食を誇る人気ナンバーワン商品の「ミラノ風ドリア」は、少なくとも年に10回以上、1983年の発売からこれまでに1,000回を超える改良を続けています。

サイゼリヤ会長

正垣泰彦

しょうがき・やすひこ

昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場を果たす。21年より現職。27年グループ年間来客数2億人を突破。令和元年7月国内外1,500店舗を達成。同年11月旭日中綬章受章。著書に『サイゼリヤおいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫)。