2016年6月号
特集
関を越える
インタビュー③
  • エンジニア社長髙崎充弘

「執念」と「遊び心」が
難局を打開する力を生む

工具業界では、ある商品が年間1万丁売れれば大ヒットと言われている。その常識を大阪にある従業員30名の小さなメーカーが覆した。工具の名は「ネジザウルス」。シリーズ累計販売数は13年間で実に270万丁にも及ぶ。しかし、一時は赤字に陥り、経営危機に立たされた。そこからいかにしてヒット商品を生み出し、V字回復を成し遂げたのか。エンジニア社長・髙崎充弘氏に伺った。

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「ネジザウルス」大ヒットの秘密

──御社が開発された工具「ネジザウルス」は驚異的な大ヒットを記録しているそうですね。

2002年に初代ネジザウルスを発売しまして、現在は5代目モデルを展開しています。通常、工具というのは年間1万丁も売れれば大ヒットと言われていますが、シリーズ累計販売数は13年間で270万丁を超えているんです。
とはいえ、まだまだご存じない方も数多くいらっしゃいますし、お客様からも「もっとこうしてほしい」という要望がどんどん集まっていますので、決して満足はしていません。
で、これが実物のネジザウルスなんですけど、どう見ても容姿は普通のペンチでしょう?

──確かにそうですね。

ペンチは先端部分を開閉し、物を掴んで引っ張ったり切断したりする工具ですが、それと最も大きく違うのは、「ネジの頭を掴んで回せる」という点にあります。これによってどんなネジでも外してしまおうと。それがネジザウルスのコンセプトなんです。
正常なネジであればドライバーで簡単に外すことができますが、ドライバーで繰り返しグリグリやっているうちに、ネジの頭が潰れて困った経験ってないですか?

──ああ、あります。

他にもネジが錆びて固まってしまったりするとドライバーではどうにもできません。ネジザウルスはそういう厄介なネジも外すことができるんです。
その秘密は先端部分に施された特殊な加工にありましてね。通常のペンチって先端部分に横向きの溝が入っているんです。これは何かを掴んで引っ張る時に摩擦を利かせるためですが、掴んで回そうとすると回転方向と溝の方向が同じなので、滑ってしまう。そこで、まず縦に溝を入れたんです。
これを2000年に「小ネジプライヤー」という商品名で発売しましたが、全く売れませんでした。販売数は1年間でたったの800丁足らず。縦の溝を入れるだけでは、機能として不十分だったんですね。

──なぜでしょうか。

小ネジプライヤーは通常のペンチと同様、閉じた時に先端部分が平行になるよう設計されているので、ネジの頭を掴もうとするとハの字型になって、やはり滑ってしまうんです。そこで、開いた時にちょうどネジの頭を真横から平行に掴めるよう、逆ハの字型に改良しました。
この傾斜角がビートたけしさんのコマネチというギャグに似ていたので、「コマネチ角度」と命名したんです(笑)。実際、これによって錆びて固まったネジも外すことができるようになりました。
また、商品名も親しみやすいものに変えようと思い、社内公募をしたんです。その中に、ネジの頭を掴む先端部分を恐竜のティラノサウルスに見立てた案があって、「ああ、これだ」と。即断で「ネジザウルス」に決めました。パッケージも目立つように工夫を施し、価格も下げて、2002年の8月にホームセンターで販売を開始したところ、そこから4か月だけで7万丁も売れたんです。

エンジニア社長

髙崎充弘

たかさき・みつひろ

昭和30年兵庫県生まれ。52年東京大学工学部卒業後、三井造船に入社。米国レンスラー工科大学に留学し、修士課程卒業。62年家業の双葉工具(現・エンジニア)に入社。平成14年に発売した工具「ネジザウルス」をシリーズ累計270万丁の大ヒット工具に育て上げた。16年より現職。著書に『「ネジザウルス」の逆襲』(日本実業出版社)がある。