2023年4月号
特集
人生の四季をどう生きるか
インタビュー①
  • セレモアホールディングス社長辻 正司

心に寄り添う
葬祭業を目指して

お客様の心に寄り添った高品質のサービスを徹底して追求し、グループ全体の売り上げは100億円超、東日本では葬儀施行件数トップを誇るセレモアホールディングス。同社をゼロから創業し、今日の発展を築いてきた辻 正司社長に、艱難辛苦の歩みから得た仕事の要諦、人の生死に向き合う中で掴んだ人生のヒントをお話しいただいた。

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仕事の基本姿勢を徹底して伝え続ける

——御社は今年(2023年)創業55年を迎え、家族葬・一般葬から社葬まで、東日本では葬儀施行件数トップだと伺っています。御社が選ばれる理由はどこにあるのでしょうか。

葬祭業は、何か商品をつくってその使い勝手がいい、デザインがいい、という仕事とは違って、大切な人を亡くされたご遺族のお気持ちを察し、お心に寄り添っていくことが求められます。そのための社員教育、組織の風土づくりをものすごく大事にしてきました。

——具体的には、どのような取り組みをなさっているのですか。

朝礼など一時的な機会に思いを伝えるだけだと、自己満足になってしまい、本当の教育にはならないと思うんですよ。とにかく習慣になるまで事あるごとに徹底して言い続ける、伝え続ける。例えば我が社では、私の思いや会社の行動指針を手書きで記したカードを常に社員全員が携帯しています。
いくつかご紹介しますと、「セレモアならではの心あたたまるサービスおもてなし どうぞご安心ください」「素早い気づきで 一歩踏み込み 正しく判断 即実行」「セレモア十訓(誠実・忠誠心・感謝・礼儀・謙虚・愛着心・使命感・責務・見識・気迫)」などがあります。

——セレモア10訓の項目は、どれも仕事に不可欠な姿勢ですね。

特に人の死に向き合う葬祭業では、故人やご遺族への忠誠心、職業に対する使命感がなければ、ご遺体に触れ、お身体をきよめ、旅立ちのお仕度をさせていただくことはできません。ご遺族に最初にお会いする際、心から誠実に丁寧にご挨拶する。挨拶もきちんとできないようでは、お客様も「こんな会社に大事な人の葬儀を頼んでよいのだろうか」と思われるでしょう。本気で、誠心誠意お尽くしすることで、お客様にもその心が伝わり、「ここならば安心だ」と感じていただけます。
そうした仕事の心構え、姿勢を私は弊社において「セレモア品質R」と言っております。サービスとおもてなしの心が社内に風土としてしっかり根付いてきていると思い、「セレモア品質R」という言葉をアピールさせていただいているところです。どれも人として、社会人として基本的なことですが、分かっていてもいつの間にかれてしまい、仕事の有り難さやお客様に感謝する気持ちが薄れてしまうのです。社員からわずらわしいと思われるくらいに、習慣になるまで徹底的に言い続けています。
実際、最初に頼んだ葬儀社の対応に納得できず、「セレモアさんなら大丈夫だろう」と、ご依頼くださる方が本当に多いんですよ。

——徹底した社員教育、組織風土づくり、そこから生まれる「セレモア品質R」に、御社が多くの方に選ばれる理由があるのですね。

「セレモア品質®」を支える行動指針を記したカード

最近、葬儀がどんどん簡略化されている風潮にも危機感を抱いています。やむを得ないご事情もありますが、身内だけで葬儀を済ませ、誰にも知らせず、告別式を行わないという方が増えています。でも、告別式とは本来、家族が故人に代わって、生前関係のあった方々に「本当にお世話になりました」と感謝をお伝えする場なのです。
古来、日本人が重んじてきたとむらいの心や儀礼の精神は尊いものです。そのような伝統文化を軽んじる風潮が広がれば、子供たちからも、お世話になった方に感謝する心が薄れていってしまうと思うのです。

——おっしゃる通りですね。

だから、葬祭業は日本の伝統文化を守り伝える場でもあるという思いで、会社のキャッチコピーに「人の心 日本の伝統文化を守る」という言葉を入れています。葬祭業が日本社会に与える影響の大きさをしっかり自覚し、これからも事業に向き合っていく。その思いをますます深めているところです。

セレモアホールディングス社長

辻 正司

つじ・しょうじ

昭和22年東京都生まれ。43年葬祭業「筑波祭典」(現・セレモアホールディングス)を創業。葬祭業の傍ら、作詞、詩の創作、風景写真の撮影、歌手活動など多方面で活躍。著書に『悠久の空へ』(中央公論事業出版)『人生で大切なことはみんな「寅さん」に教わった』(講談社)、詩集に『空 もう一度会えたなら』『風のように水のように』(共に講談社)『永遠の風』(PHPパブリッシング)など多数。