2020年2月号
特集
心に残る言葉
対談
  • (左)リウボウホールディングス会長糸数剛一
  • (右)セコマ社長丸谷智保

オンリーワンを追求し、
地域ナンバーワンへ

東京一極集中、人口減少、過疎化、高齢化。日本の地方都市を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ない。しかし、そんな状況にあっても地域に根を下ろし、大手や競合とは一線を画した独自の商品・サービスを提供することで、多くの人々から愛され続けている企業がある。北海道でコンビニチェーンを展開するセコマの丸谷智保社長、沖縄県で百貨店・スーパー・コンビニ事業を手掛けるリウボウホールディングスの糸数剛一会長。お二人の経営トップが大切にしている人生信条、日頃よく社員に語っている言葉とはいかなるものか――。

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日本の北と南地域に根差した小売業の雄

丸谷 きょうは糸数いとかずさんに、リウボウさんでも扱ってもらっているワインの中で人気の「G7」の新商品をお土産に持ってきました。

糸数 いやぁ、ありがとうございます。会社同士で数年前から取り引きさせていただいていますけど、丸谷さんとお会いするのは初めてなので、楽しみにしてきました。
お互い日本の北と南でそれぞれの地域に根差した事業を展開しているわけですが、丸谷まるたにさんは時代の流れを踏まえて、いまどんなことに力を入れていますか?

丸谷 主に2つありまして、「地域密着」と「外販がいはん」ですね。北海道を取り巻く環境は厳しく、人口減少とか過疎化とか高齢化、そういう問題を抱える中で、サステナブル(持続可能)な企業にするにはどうするか。その一つの解が「地域密着」なんです。
昨日も北海道の北見きたみに行って痛感したんですけど、まだまだ地域の資源を生かし切れていないと。そういうものを深く掘り起こしていけば、地域を残していく、存続させることができると思います。
もう一つは「外販」。もちろん現在の主要業務は小売業、コンビニチェーンの展開です。1971年に札幌市内にセイコーマート一号店をオープンしてから50年近くが経ち、おかげさまで道内約1,090店舗、人口カバー率は99.8%にまでなりました。

糸数 北海道のコンビニシェアではナンバーワンですよね。

丸谷 今後も北海道の地にしっかりと根づかせていきながら、さらにポテンシャルを引き出すためには外に打って出る。ただし、いまさら店舗で進出するのではなく、北海道のいい商品をどんどん広めていこうと。現在のターゲットはジャパン・マーケットなんです。
なぜジャパンかというと、北海道から見た場合、本州も海外みたいなものですから(笑)。それで東京に特販部を立ち上げ、いま取引先が200社ほどあります。

糸数 お話を伺っていて、軸にある部分はほとんど一緒だなと感じました。沖縄県は全国の中でもめずらしく人口が増えているとはいえ、数年後には頭打ちになることが目に見えています。加えて、国内外の競合他社がどんどん入ってくる。その中で生き残る方法は、小売で地域のいいモノをただ売るのではなく、リスクを取って生産の段階から一緒に関わり、地域の会社がお互いの信頼関係で生産から販売まで取り引きしましょうと。
そうやって地域のいいモノを取り込んで、「地域完結型」の商売をすれば、その10倍や20倍のナショナルチェーンが進出してきても、彼らはナショナルブランドを売るしかなくなるので、こちらも十分元気に生き残っていける。大手が参入するたびに皆大騒ぎするんですけど、まったあわてる必要はなく、生産量や売り上げを拡大するというよりは、独自性を持ってお客さんから圧倒的な支持率を得ることが最大のテーマなんです。

百貨店不況と言われる中、8期連続増収で過去最高の売上高を更新した沖縄県のデパートリウボウ

私どもは沖縄県で百貨店(デパートリウボウ/一店舗)、スーパーマーケット(リウボウストア/13店舗)、コンビニエンスストア(沖縄ファミリーマート/326店舗)を中心に事業を展開していますが、例えば、沖縄ファミリーマートで最近一番成功しているのが、地元で有名な「上間うえま天ぷら」と提携して開発した商品です。これが爆発的な人気で、生産ラインを増やしても追いつかないほどの状態になっています。
テレビCMにしても、全国版のCMも当然少しは流しますけど、地元のタレントを使って、地元の人の感覚に合ったCMを自分たちでつくって流すのが大半ですね。ファミマは全国チェーンではあるものの、沖縄ファミマは自分たちのファミマみたいに、最終的には「好き」って感じてもらうことが一番だと思うんです。

セコマ社長

丸谷智保

まるたに・ともやす

昭和29年北海道生まれ。54年慶應義塾大学法学部卒業後、同年北海道拓殖銀行入行。平成10年より米シティバンクの在日支店勤務。17年顧客・人材開発本部長。19年セイコーマート(現・セコマ)入社。専務、副社長を経て、21年社長就任。26年より内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーターを務める。

リウボウが掲げる「グローカル」戦略

糸数 もう一つ大切にしているのが、「マーケットは世界軸」ということ。沖縄は非常に交通の便がよくて、近隣諸国を含め飛行機4時間以内で20億人ものマーケットが存在します。観光客は国内で700万人、海外で300万人、合計1,000万人を超えているわけですね。2020年3月には那覇なは空港の第二滑走路が開通しますから、受け入れ態勢はもっと広がります。
そういう中で、地域完結型で内側に強い支持率と関係性を持ちながらも、マーケットは国内外に目を向けると。もともとリウボウは琉球りゅうきゅう貿易の略で、1948年に設立した貿易会社が発祥なんですね。だから、原点回帰の意味で、世界中のいい商品を自分たちで探しに行き、直接交渉し、おろしてくると。
例えば、いま注目を集めているのが「グレート・テイスト」です。これはイギリスの高級食品をプロモートする団体が主催し、「食のオスカー」と呼ばれている国際大会で、そこと業務提携をしてコンテストで高評価を得た菓子やハーブティー、ジャムなどをデパートリウボウの自主編成ブランド「樂園らくえん百貨店」で販売しているんです。
私はローカルとグローバルを掛け合わせて、「グローカル」と表現しているんですけど、この合わせ技が大事だと思っています。結果として、百貨店とスーパーは8期連続、コンビニは設立以来32期連続で増収を記録し、グループ売上高は過去最高の1165億円になっています。

丸谷 考え方もやっていることもすごく似ていますね。我われは道内に21の食品工場を持っています。主たるものは牛乳、ヨーグルト、生クリーム、バター、アイスクリームなどの酪農らくのう製品。この北海道らしいモノを外に売ることが一つの強みになるわけですが、一方で問題なのは、それをどうやって物流させるかです。
で、我われはほとんどのお店が北海道にあるものの、縁あって100店舗弱を茨城県と埼玉県に展開していまして、物流センターと食品工場を茨城に持っているんですね。
食品の多くは単価百100とか200円ですから、一個に対する物流コストが高くなってしまうと、競争力のない高価格にならざるを得ません。そうすると、いくらいいモノでも一度は買ってくれるけど、買い続けてもらえない。やはり価格が重要なんです。手頃な価格を実現するためには、物流を効率化していくことがとても大きな力になると思います。

リウボウホールディングス会長

糸数剛一

いとかず・ごういち

昭和34年沖縄県生まれ。60年早稲田大学政治経済学部卒業後、同年沖縄銀行入行。63年沖縄ファミリーマート入社。取締役営業部長、常務、専務を経て、平成19年ファミリーマートに出向し、米ファミマ社長兼CEO。22年沖縄ファミリーマート社長。25年リウボウホールディングス社長。28年会長就任。