2020年2月号
特集
心に残る言葉
  • 日本政策研究センター主任研究員岡田幹彦

明治の英傑が遺した言葉

そこにどういう人がいるかであらゆる組織の盛衰は決まるという。明治日本が西洋列強に伍する国家へ発展を遂げたのは、各界に優秀な人物がいたからに他ならない。日本の歴史・人物に造詣の深い岡田幹彦氏に、明治時代を代表する英傑の生き方と言葉を繙いていただいた。彼らに共通する信条とは何か。教科書では決して学べない感動の真実がここにある。

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心を動かされた西郷隆盛の遺訓

西郷南洲遺訓さいごうなんしゅういくん』という名著があります。西郷隆盛を師と仰ぐ旧庄内しょうない藩士らが西郷の教えを書き記したものであり、この本との出逢いは私の人生の大きな転機となりました。小さい頃から歴史・人物に関心がありましたが、高校生の時、父親が遺してくれた戦前の糸じの『西郷南洲遺訓』を読み、非常に感銘を受け、以後人物伝を読み続け、今日に至っています。

とりわけ心に響き、人生の支えとなった言葉を3つ紹介します。

「人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、おのれを尽くし人をとがめず、我が誠の足らざるをたずぬべし」
〔人を相手にしないで天(神)を相手にせよ。そうして自分の精一杯を尽くし、うまくいかないことがあっても人のせいにせず、自分の真心が足りないと反省すべきだ〕

2つ目は、毀誉褒貶きよほうへんに左右されない生き方を説いた教えです。

「道を行う者は、天下挙てんかこぞっそしるも足らざるとせず、天下挙てむるも足れりとせざるは、自ら信ずるの厚きが故也ゆえなり
〔道を求めて生きる者は人々がこぞってけなし悪く言おうとも、決して不満を抱いたりしない。人々がこぞってめたとしても、決して舞い上がったりしない。周囲の評判など気にせず、自分の信念を貫くことが大切なのだから〕

そして、最後はこの言葉。

「天下後世迄こうせいまで信仰悦服しんこうえっぷくせらるるものは、只是一箇ただこれいっこ真誠しんせい也」
〔後世にまでずっと信じ仰がれて感動を与えることができるのは、ただ一つ、真心・誠意だけである〕

西郷はこれらの言葉通りに生き抜き、明治維新という我が国最大の変革においてこの上ない功績を残しました。内村鑑三かんぞうが『代表的日本人』の中で西郷を第一に取り上げているように、日本の歴史を代表する偉人となったのは、3つの言葉に象徴される高い精神性を有していたからに他なりません。

日本政策研究センター主任研究員

岡田幹彦

おかだ・みきひこ

昭和21年北海道深川生まれ。國學院大學中退。学生時より日本の歴史・人物の研究を続け、月刊『明日への選択』に数多くの人物伝を連載すると共に、全国各地で歴史講座や歴史講演会を行う。平成21-22年『産経新聞』に「元気のでる歴史人物講座」を連載(103回)。著書に『親日はかくして生まれた』(日本政策研究センター)『日本の誇り103人』『日本の偉人物語1-4』など多数、最新刊に『日本の母と妻たち』(いずれも光明思想社)。