2026年6月号
特集
人間を磨く
インタビュー①
  • キミカ社長笠原文善

唯一無二の価値を
信じ抜く

海藻から採取できるぬめり成分で、パンや麺類の食感向上、医療にも貢献する「アルギン酸」。その国内唯一のメーカーとして、シェア九割を誇るのがキミカだ。創業者の急逝に伴って同社の舵を握った笠原文善氏は、四面楚歌の逆境で「ベスト・イン・ザ・ワールド」のものづくりを打ち出し、今日を築いた。まるで戦艦大和に挑む一艘の漁船の気分だった――そう述懐する氏が、悪戦苦闘の末に辿り着いた経営の心とは。

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    キミカ社長

    笠原文善

    かさはら・ふみよし

    昭和31年千葉県生まれ。54年東京理科大学工学部卒業。早稲田大学大学院を修了後、持田製薬に入社し、研究開発の技術者として勤務。59年創業者である父の急逝に伴いキミカ入社。技術課長、管理部長、常務、専務を歴任。平成13年現職に就く。

    食品の流通から再生医療の最先端まで

    ──御社が日本で最初に工業生産を実現したという天然由来の物質「アルギン酸」は、一般にあまり知られていませんが、広く社会に役立っているそうですね。

    そうなんです。アルギン酸は昆布のヌルヌルとしたぬめりの成分、これを抽出精製したものです。滑らかで、なおかつねんせいがあるのが特徴です。
    面白いもので、このヌルヌルを例えばカルシウム溶液に混ぜると、瞬時に「ゲル化」してゼリーになる性質を持っています。普通はゼリー化剤を熱湯に溶かし、冷まして固める工程が必要になるところを、アルギン酸は一瞬、しかも常温でできるんです。
    様々な固さに調節できるので、食品だと麺類のコシを出したり、食パンをしっとりふんわりさせ、さらに弾力を出したりするのにもお使いいただいています。あとは錠剤、タブレット類。胃で溶けると胃壁を荒らしてしまう薬を、腸で溶けるように調節した腸溶錠剤にも活用されています。

    ──食品だけでなく、薬剤にも。

    加えて、20数年前からは医療用製品の開発を進めてきました。2024年、やっとアメリカで止血剤として承認され、国防総省で採用されました。
    また同じタイミングで、再生医療でも実用化のが立ちました。本来、人の体の切れてしまった神経や擦り減った軟骨は、再生する力があるそうです。我々が治験で関わったある患者さんは、怪我けがで腕の神経が切れ、ひじから先の感覚が失われていました。そこで、当社のアルギン酸の繊維を腕に通し、神経の通り道をつくってあげました。そうしたら、だんだん手の感覚が戻ってきて、最後は自由に動かせるようになったんです。