2026年6月号
特集
人間を磨く
一人称
  • 授業づくりJAPAN横浜《中学》代表服部 剛

子供たちが
目を輝かせる
武士道の授業

碩学・安岡正篤師は、人間の見識を養うためには、古典と歴史と人物の研究を徹底しなければならないと説いた。これは、いまの教育に大きく欠けているものともいえるだろう。こうした中、独自の歴史教育を実践してきた服部剛氏の授業は、生徒が目を輝かせて聴き入るという。氏が子供たちに語り続けてきたもの、そして次代に語り継ぎたい日本の心とは──。

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    授業づくりJAPAN横浜《中学》代表

    服部 剛

    はっとり・たけし

    昭和37年神奈川県生まれ。元横浜市中学校社会科教諭。令和8年3月退職し、歴史研究に専念。「授業づくりJAPAN横浜《中学》」代表。NPO法人「歴史人物学習館」理事。著書に『感動の日本史』(致知出版社)『先生、日本ってすごいね』(高木書房)『先生、日本のこと教えて—教科書が教えない社会科授業』(扶桑社)などがある。

    日本人に生まれたことに誇りを持てる授業を

    「自分だけのことを考えて生きるのではなく、日本のために何か大きな仕事を成し遂げたい」

    「日本が危ない時に政治家任せにしておけばいいという考えではなく、日本のことを自分のこととして考えられるようにしたいなと思いました」

    これは、私の歴史授業を受けた公立中学校の生徒たちの感想文です。

    私は子供の頃から、大好きな歴史小説や武道の先生方を通じて日本の先人たちの生き方を学び、大きな感化を受けてきました。大学卒業後、学習塾の講師を経て念願の教職に就いたのは平成元(1989)年、27歳の時でした。ところが、当時の教育現場は日本の戦前を否定的に捉えるぎゃくかんに傾いており、日本の美点が生徒に十分伝承されていないことを痛感させられました。

    日本の歴史には、2つの特徴があると私は考えます。一つは、天皇を中心とする国であること。もう一つは、大半の時代を武士が中心となって国造りにまいしんしてきたこと。特に2つ目の特徴は、日本人の精神のベースともいえる武士道が根づく要因となりました。

    ところが、学校の授業では天皇も武士道も教えられておらず、ただ昔の出来事を年代順に教えていくだけ。こんな無味乾燥な授業では、日本とは何か、それを踏まえて自分はどう生きるべきかを考える糸口すらつかめません。

    どうすれば生徒たちが日本の歴史をもっと理解し、日本人として生まれてきたことに誇りを持ってもらえるだろうか。私は試行錯誤を重ね、歴史的事実や偉人の話を素材に、10年がかりで武士道をベースとする独自の授業スタイルを確立したのです。

    残念ながら、当初は周囲から十分な理解を得ることができず、様々な批判を受けてきました。武士道は封建的で古臭いものという認識が、教師仲間の間にも根強くあったのです。これは、戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が行った占領政策によって、日本の強さの源であった伝統的価値観が徹底的に排除されたことに起因します。武士道も当然その中に含まれていました。

    しかし逆に考えれば、GHQが禁止したものこそ日本にとって極めて大切なものであったといえます。だからこそ教えなければならないのだ。私はそうはらくくり、周囲からの批判にも屈することなく、授業を通じて武士道の精神を伝承し続けてきたのです。

    歴史の授業のきもは、人物学習だと私は考えます。先人たちの魅力あふれる人間性や、様々な逆境を乗り越えて志をまっとうする生き方を紹介することで、それまで無機質だった歴史の事象が、鮮やかな色彩をもって胸に迫ってきます。心の純粋な中学生たちは、人物に感情移入し、その人生を追体験することで、それまで自分とは無関係と思い込んでいた歴史をリアルに感じるようになります。この時代にこんな人間がいて、こんなに頑張ってくれたおかげでいまがある。このことに気づいてくれたらしめたものです。

    歴史の授業に限らず、道徳や公民の授業、さらには生徒指導やホームルームなどでもそうした話を盛り込むことで、私は様々な角度から先人たちの素晴らしい生き方を生徒たちに伝承してきたのです。