2017年4月号
特集
繁栄の法則
インタビュー
  • 和倉温泉 加賀屋 女将小田真弓

お客様の
最高満足度を
追求して

創業111年の歴史を誇り、日本一のおもてなしと称される名旅館・加賀屋。国内外から訪れる年間30万人の宿泊客を魅了して已まないそのおもてなしの心を培ってきたのが、女将の小田真弓さんである。加賀屋一筋55年の歩み、加賀屋流おもてなしの神髄、そこから見えてきた繁栄の法則とは——。

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お客様を第一に常に謙虚に受け止める

──小田さんは老舗旅館・加賀屋の女将として、日本一と称されるおもてなしを長年にわたって牽引されていますね。

加賀屋は明治39(1906)年に、私の義祖父にあたる小田與吉郎が創業し、111年の歴史を刻んできました。最初は12室、30名を収容する小さな旅館でしたが、いまでは雪月花、能登渚亭、能登客殿、能登本陣の4館合わせて、232室、1,328名の規模となっています。その他にも4つの姉妹旅館を運営しており、年間30万人のお客様にご利用いただいているんです。
旅行新聞新社が実施する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」では、昭和56年から36年連続で総合1位という高い評価をいただきました。ただ、昨年(2016年)の結果は総合3位でした。これはやはり9月に引き起こした食中毒が大きな要因だと思っております。
私どもの商売において、食中毒は出していけないわけでございますが、15名のお客様が腹痛や下痢を発症されました。原因は海水に含まれている腸炎ビブリオという細菌で、どうも魚の洗い方が悪かったようなんです。保健所の方に衛生管理の指導をしていただいて、いまはそれを徹底して守っております。
15名のお客様のうち10名の方は入院され、5名の方はお帰りになったのですが、私どもとしては食中毒の連絡が入ったと同時に、どういうことであれ、本社や各営業所の人間を総動員して、まず全員のお客様のところに顔を出して謝ってまいりました。

──真っ先にお客様のところに行かれて、お詫びをされた。

結果的には全員が無事に回復され、お客様の中には、逆に私どもの対応の早さを評価していただいたりもしたんですが、これは義母(先代女将)の教えに基づいているんです。
実は30数年前にも一度食中毒を起こしてしまったことがありました。日本文学者の犬養孝先生が大学の生徒さんを連れて、加賀屋に毎年来てくださっていたんですけど、ある年の宴会で生徒さんの具合が悪くなった。その時、義母はまず生徒さんの体調を心配して、入院先を全部回って、一人ひとりをお見舞いしたそうです。その義母の姿に、犬養先生は「こんなに大事にしてくれるのか」と驚かれ、その後も何十年と加賀屋への旅行を続けてくださったんです。

──ああ、先代女将の真摯な態度に感動されたと。

具合が悪いって聞いたら、何を放ってでも、お客様のお顔を見て、「大丈夫ですか」「申し訳ございません」と謝る。この義母の大事な教えを守り、若い客室係たちにも語り伝えていきたいと思っております。

和倉温泉 加賀屋 女将

小田真弓

おだ・まゆみ

昭和13年東京生まれ。36年立教大学文学部卒業後、加賀屋の小田禎彦(現・相談役)と結婚し、37年加賀屋に入社。38年同社取締役、54年に常務取締役就任。女将として現在に至る。著書に『加賀屋 笑顔で気働き』(日本経済新聞出版社)。