2022年12月号
特集
追悼・稲盛和夫
特別講話
  • 稲盛和夫

人は何のために
生きるのか

盛和塾生のみならず、一般の方々にもよりよい人生を歩んでいただきたい――。そんな稲盛氏の想いにより実現した盛和塾主催の市民フォーラムは、2002年から2016年にかけて、日本・海外の各地で累計10万人もの人々を動員した。2013年10月29日、大阪国際会議場で開催された講演会には2500名を超える参加者が集い、ホールに入りきらない人々が別室モニターから聴講するほどの熱気に溢れたという。人が自ら運命を創り、素晴らしい人生を生きるためのヒントに満ちた珠玉の講話をここに収録する。

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81年の人生を振り返っての感慨

私は今日まで生きてくる中で、多くのことに気がついておりますが、その一つは現在が苦しければ苦しいほど、とかく人というものは愚痴ぐちや不平不満を鳴らしてしまうというものです。しかし、その愚痴や不平不満は、結局は自分自身に返ってきて、自分自身をさらに悪い境遇へと追いやってしまうのが常であります。そのことを、私は自分の80年あまりの人生で体験をしてまいりました。

人はどんな境遇にあろうとも、感謝の心というものを忘れてはならないのだと、私は思っております。常に感謝をし、自分の周囲にいる人たちに対しても御礼を申し上げる。また、現在のこの社会、そして自然に対しても感謝をする。そういう美しい心を持つことがたいへん大事なことだと、私はかねてから思ってきております。同時に、そのような澄み切った美しい心を持って人生を生きていけば、必ずその人の人生には素晴らしい未来が待ち受けているのだと、私は固く信じております。

人生というものはどのようにつくられているのか、自分には将来、どのような人生が待ち受けているのかということは、誰も知るよしがありません。しかし、人生を渡っていく中で、「人生というものはどのようにつくられているのか」ということを、若干でも知っているのとまったく知らないのとでは、今後、皆さんが歩いていかれます人生の方向は変わっていくように私は思います。

私は本年(2013年)で満81歳になりました。元々はファインセラミックスを研究する技術屋で、ファインセラミックスの研究開発をしておりました。27歳の時に、私を支援してくださる方々によって京セラという会社をつくっていただきました。その後、今日まで50数年間にわたり経営にあたってまいりました。

「今、私は会社を経営しているけれども、果たしてうまく経営していくことができるのだろうか。どうすれば倒産という悲劇からまぬかれることができるのだろうか。どうすれば従業員を幸福にできるのだろうか」。そういうことを思いながら、日々必死の努力を続けておりました。

稲盛和夫

いなもり・かずお

昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰する。中小企業経営者のための勉強会「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ(令和元年解散)。令和4年8月24日、90歳で逝去。著書に『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』『稲盛和夫一日一言』(いずれも致知出版社)など多数。