2023年4月号
特集
人生の四季をどう生きるか
インタビュー③
  • 薬膳料亭「凛 追立」オーナーシェフ追立久夫

薬膳に棄物なし
料理人に完成なし

高校卒業後、単身香港に渡ったのを皮切りに料理の本場を渡り歩き、薬膳に目覚めた追立久夫氏。日本で知る人の少なかった薬膳、その本質を追究し広める独創の歩みは悲喜交々であった。この道50余年、料理を通して人生を味わい、古希を越えた氏の仕事観・人間観に迫る。

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食材も人間と同じ皆違う個性がある

——追立おいたてさんは日本で薬膳がいまほど注目されない50数年前から、その研究とけいもうに取り組んでこられました。お顔のつやもよく、はつらつとされていますね。

71歳になりましたけど、おかげさまで元気でね、体はどこも悪くありません。朝7時に起きて、店が終わる夜10時まで厨房に立っていますよ。仕事をしなければ他にすることがないんです。
朝のうちはもっぱら家の畑の手入れをしています。少なくともご予約のお客様には、自分で育てた野菜や果物で出したい。きんかん、クコの実、菊芋……珍しいものも含め、野菜や果物が全部で百種類くらい植えてあって、季節ごとに実る作物も変わります。どれも種から育てて、いつ1番おいしくなるかを研究しているんです。

——すべて薬膳の材料なのですか。

薬膳といっても難しく考える必要はありません。特殊な漢方薬を使うものではなく、そもそも私たちが普段食べている食材それぞれに、体を健康にする効能がある。これを目的に沿って組み合わせるのが薬膳なんです。
例えば味噌汁だってそうです。味噌汁は腸内環境を整えますが、そこに疲労回復に効くレモン汁を垂らす。すると一層体をやす一品になります。これも薬膳ですよ。あとは、なぜ焼き肉や豚カツに、他の野菜ではなくレタスやキャベツがつくのか考えてみてください。脂を分解する効能があるからです。全部意味があるんですよ。

——普段の食のそこかしこに先人の知恵、薬膳はあるのですね。

食材も人間と同じ、すべて性格が違います。何も理解せず、一緒くたに調理してはダメです。薬膳を扱った番組や雑誌を見ると皆、こういうかんじんなことを忘れています。正味50年、薬膳1本で生きてきた自分が持っているものを残したいという思いもあって、店に立ち続けているんです。

薬膳料亭「凛 追立」オーナーシェフ

追立久夫

おいたて・ひさお

昭和26年鹿児島県生まれ。高校卒業後、46年香港に渡り、北京料理・広東料理の修業に入る。以後、日本と中国、台湾、韓国など本場を行き来しながら薬膳料理の研究を進め、「追立式」中国料理を確立。平成2年『追立久夫の薬膳と健康』全5巻を出版。翌年国際食博覧会中華部門で金賞、郵政大臣賞を受賞。8年独立し、現在は「凛 追立」(大阪府守口市)オーナーシェフを務める。