2019年4月号
特集
運と徳
インタビュー③
  • 一般社団法人大地が教えてくれたこと理事村上貴仁

大地が教えてくれた奇跡

緑豊かな淡路島で、ユニークな農法を営む「豊穣ランド」。農薬や肥料を使わず、収穫は会員任せ。理想の農業を追求し、訪れる人の笑い声が絶えない農園をつくり上げてきた運営者の村上貴仁氏に、その笑顔からは窺い知れないかつての苦悩と、開運功徳の道のりをお話しいただいた。

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どうすれば農業で幸せになれるか

――村上さんはこちらの淡路島の農園を、とてもユニークな方法で運営なさっているそうですね。

私は、もともと北海道の洞爺とうや村で「佐々木ファーム」という農場の経営に19年ほどたずさわりながら、農業でどうしたら幸せになれるか、農業でどうしたら豊かになれるかを模索してきました。そして去年の5月にこの「豊穣ほうじょうランド」を立ち上げて、まったく違ったスタイルの農業に挑戦し始めたところなんです。
ここでは、1ヘクタールくらいの畑を会員さんの会費で運営しています。皆さんに最初にいただいたお金で資材を購入し、農産物を生産して、月1回の開放デーに会員さんに収穫していただいているんです。

――会員さんが農作物の収穫を。

ええ。こういう農業をベースにしたコミュニティは、全国でも非常に珍しいといわれています。
農業というのは、単価がとても低いのでたくさん売らなければ十分な利益が得られませんし、そのためには広い面積が必要になります。薄利多売はくりたばいの世界ですし、市場相場にも左右されてしまいます。そこから脱しようとして契約栽培にしてみたんですけど、頑張れば頑張るほど経費がふくらんでしまう。

そこでこの豊穣ランドでは、契約していただいた会員の皆さんに、自分で収穫して自分で持って帰ってくださいというスタイルにしたんです。こちらは人件費も資材費も運送費もゼロですし、会員さんは自然の中でのつかの間の農業体験を満喫していただけます。
ブランド物の作業着に身を包んで張り切ってお越しになったり、ご家族で汗を流した後、周囲を観光してお帰りになったり、皆さん思い思いに収穫を楽しんでくださっている。これまであらゆる農業のやり方を試してきましたけど、ようやく理想の農業の形が見え始めたところなんです。

――会員さんはどのくらいいらっしゃるのですか。

まだ1年も経っていませんけど、少しずつ少しずつ増えて、いまは大体100名くらいの方に登録していただいています。もともとはここに採りに来られるご近所の方を対象にしていたんですけど、ふたを開けてみると、四国、九州、関西、関東と、遠くからたくさんの方が毎月来てくださっているんですよ。
いまの農園の規模だと300名くらいまではいけるかなと思っていて、そうなるともっといろんなことをやれる可能性が出てきます。ただ、規模を大きくするのがうちの最終目的ではないんです。この仕組みを全国の農家さんたちに提供して、一軒でも多くの方々に、農業で幸せになっていただきたいというのが私の願いなんです。

一般社団法人、大地が教えてくれたこと理事

村上貴仁

むらかみ・たかひと

昭和45年北海道生まれ。スポーツクラブ勤務を経て、洞爺で農業を始める。近代農業の大量生産、大量消費に疑問を抱いていた折、息子を突然亡くす体験をきっかけに、命について真剣に考え始める。一般社団法人「大地が教えてくれたこと」を設立。循環型農業「ありがとう農法」の教授や講演活動を始める。30年には淡路島で会員制農業コミュニティ「豊穣ランド」を立ち上げる。著書に『大地がよろこぶ「ありがとう」の奇跡』(サンマーク出版)がある。