2019年4月号
特集
運と徳
インタビュー②
  • アフターケア相談所「ゆずりは」所長高橋亜美

自分を愛せるように
なった時、親の徳は育まれる

高橋亜美さんは長年、児童虐待によって深い傷を負った多くの子供たちと向き合い続けてきた。深刻化する一方の厳しい現実や忘れ難い子供たちとの出会いを交えながら、私たちはこの問題をどのように受け止め、乗り越えたらよいのかをお話しいただいた。

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トラウマを抱え続ける子供たち

――高橋さんが所長を務められるアフターケア相談所「ゆずりは」(東京都国分寺市)とは、どのような施設なのですか?

虐待などによって児童養護施設や里親家庭などに入った子供たちは、高校卒業と同時にそこを巣立つことになるのですが、社会生活を営む中で困難な状況に陥るケースが少なくありません。「ゆずりは」はそんな人たちが安心して相談ができる通所つうしょ施設として2011年に開設しました。

児童養護施設などである程度のケアはできていたとしても、子供たちの中には虐待によるトラウマによって精神疾患しっかんを抱えている人も少なくありません。それが理由で例えば働けなくなってしまったりとか、家賃を何か月も滞納してしまったりとか、性風俗産業で働くことを余儀なくされて医療費や中絶費用がないなど、いろいろな問題を抱えてしまうわけです。
「ゆずりは」には5人のスタッフがいて、事業所を構えてはいるのですが、緊迫した相談やすぐに手続きをしなくてはいけない問題がとても多いので、その人の地域まで出向いて一緒に役所や警察、病院に行っているような状況ですね。

――どのくらいの人と関わっているのですか。

相談件数はメールや電話など合わせて延べにして年間2、3万件に上ります。精神的に追い詰められた人の中には、すぐに電話に出ないと「いまから死ぬ」と言って30回、40回と掛けてくるケースもあり、それだけの数になるのですが、実際の相談者の数は400人くらいでしょうね。
九州や東北まで行って必要な手続きをして、その日のうちに帰る、ということも月に何回かあります。いまでこそいろいろな団体の支援を受けていますけど、この施設を始めた当時は交通費は自腹でしたから、やりくりは大変でした。

アフターケア相談所「ゆずりは」所長

高橋亜美

たかはし・あみ

昭和48年岐阜県生まれ。日本社会事業大学卒業。自立援助ホームのスタッフを経て、平成23年アフターケア相談所「ゆずりは」所長に就任。著書に『はじめてはいたくつした』『嘘つき』『はじまりのことば』(いずれも百年書房)など。