2022年10月号
特集
生き方の法則
対談
  • Sioオーナーシェフ(左)鳥羽周作
  • オイシックス・ラ・大地社長(右)髙島宏平

人生における成功とは何か

食品販売サイト「Oisix」を26歳の時に起業し、国内最大規模の定期購入サービスに育てあげた社長の髙島宏平氏。31歳から料理の道に進み、40歳でミシュランガイド東京2020にて一つ星を獲得したsioオーナーシェフの鳥羽周作氏。異なる人生を歩んできた2人がそれぞれの生き方を通じて掴んだ「人生における成功」とは——。

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おいしいもののお裾分け

鳥羽 髙島さんとお会いするのは久しぶりですね。

髙島 確か2年前に、僕たちが共にブランドデザインをお願いしているクリエイティブディレクターの水野まなぶさんのイベントでお会いしたのが最初でしたよね。それがsioシオさんの店舗を貸し切って行われた。

鳥羽 そうでした。同じ食を扱う者同士でものすごく盛り上がって、髙島さんがやられているインターネットを使った食品宅配サービス「Oisixオイシックス」で一緒にあれもやりたい、これもやりたいと、僕が一方的にしゃべり続けた記憶があります(笑)。その時まだsioを立ち上げて2年目でしたが。

髙島 そう(笑)。その場で7~8個くらいやることが決まって、実際にレシピを共同開発したりクッキングライブをしていただいたりしましたね。昨年(2021)はOisixが販売しているミールキット(レシピと必要な食材がセットになり、主菜と副菜の2品が20分で完成するもの)の監修もしてもらいましたけど、これがものすごくよく売れて、「鳥羽シェフ監修! 濃厚無限ハヤシ」は即日完売でした。

鳥羽氏が監修したミールキット。2021年に販売開始した日に完売した

鳥羽 あのハヤシライスは本当においしいですもん(笑)。僕たちはまだ小さな会社で、自分の会社だけでできる範囲も限られていたんですけど、全国に当時約30万人(現在約35万人)もの会員をようするOisixさんと一緒にコラボレーションすることで、より多くの人を幸せにできると思ったんです。
ちょうどコロナで飲食店が打撃を受け、外出できずに家庭料理の需要が高まっていた頃だったこともあり、ミールキットで手軽にシェフたちのおいしい料理が家庭で再現できるのは最高ですよね。僕たちもコロナ禍になってから家庭を応援するつもりでレシピの無料公開やYouTube配信を始めたんですけど、Oisixさんとコラボできて、自分たちの存在意義はレストラン運営だけじゃないんだと改めて実感することができました。

髙島 お会いするたびに感じていますが、鳥羽さんの料理に対する熱量って半端じゃない(笑)。お店で料理を出す際も普通じゃなくて、鳥羽さんは「これめっちゃうまいんですよ」って、自分の大好きな料理をおすそ分けするかのような熱量で紹介してくれる。だから食べる前から楽しくなるんです。
僕たちも全国の畑に行くととんでもなくおいしい野菜をつくっている生産者の方と知り合いになれますし、その生産者の方だけが知っている食べ方を教えてもらうことが多々あります。ですから、それを一人でも多くの方に知っていただきたいというお裾分けの気持ちで食品を販売しています。

オイシックス・ラ・大地社長

髙島宏平

たかしま・こうへい

昭和48年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了。大学院時代にベンチャー企業を立ち上げる。平成10年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。12年6月オイシックス創業。25年東証マザーズ上場の後、令和2年1部指定替え(現在プライム市場)。平成23年日経ビジネス主催「CHANGE MAKERS OF THE YEAR 2011」受賞。令和2年「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2020 ジャパン」の日本代表に選出。3年より経済同友会副代表幹事に就任。著書に『ぼくは「技術」で人を動かす』(ダイヤモンド社)など。

学生ベンチャーを解散し修業の道へ

髙島 ところで鳥羽さんは『致知』を読んだことありますか?

鳥羽 いや、取材の依頼があって初めて読ませていただきました。

髙島 僕は2000年にオイシックス(現:オイシックス・ラ・大地)を創業して、5年目くらいの時にある先輩経営者から、「お前はこれから成長するんだったらこれを読め」といって、『致知』の定期購読を1年分プレゼントしてもらっていたんです。『致知』は各界プロの方々の生き方を紹介する深みのある雑誌なので、今回の企画は僕で相応ふさわしいのか……という思いはあったんですけど、きょうは『致知』の読者の方に少しでも参考になるお話ができればと思ってやってきました。

鳥羽 僕も人間学を学ぶ月刊誌の大変真面目な取材とのことで、大分緊張しています(笑)。

髙島 テーマが「生き方の法則」なので、僕の原点みたいなところからお話しさせていただきます。
僕は小学生の頃、病弱だった上に何度も転校していたのでいじめられっ子で、リーダーシップ的なものに対する強いコンプレックスや憧れがありました。結構読書もしていて歴史関係の本が好きだったので、小学校の卒業アルバムの将来の夢の欄には「大名」と書いているんです(笑)。いつか自分も戦国大名のようにリーダーシップを発揮して、世の中を平和にしたいと。

鳥羽 壮大な夢ですね(笑)。

髙島 ところが中学に上がると、周りが新しい環境に戸惑う中、僕は何度も転校してきたおかげで新しい環境に飛び込むのは慣れていたし、体も頑丈になり、リーダーシップを発揮できるようになってきたんです。それが楽しくて、積極的にリーダー役を引き受けているうちに、小学校時代の人格とはまったく違う自分になっていきました。文化祭実行委員として毎年の文化祭を盛り上げたり、体育祭がない学校だったのでゼロから企画して実現させたりしていたんです。
その延長線上で大学院時代に友人たちと学生ベンチャーを立ち上げ、当時れいめいだったインターネットに着目し、航空会社の売れ残ったチケットをネットで格安で販売したり、ネットの世界を体感してもらうイベントを実施するなど様々なことを手掛けました。当時既に、その収入だけで仲間と共に生きていけるだけのお金は得ていました。でも、いざ就活のタイミングになった時、このまま続けていても小さくまとまって終わるだけのような気がしたんです。
鳥羽さんは『サンクチュアリ』という漫画をご存じですか?

鳥羽 1990年代に連載された人気漫画ですよね。

髙島 そうです。ある2人の青年が日本を変えるためにヤクザと政治、裏と表の両方の世界に分かれて改革を起こしていくという話なんですけど、これに感化されまして(笑)。仲間たちと、各自が専門性を身につけて数年後に再び合流しようと言って、会社を一度解散し、皆就職しました。
僕はマッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルティングを学び、他にはIBMでシステムを勉強した人、テクノロジー系の会社に行った人など何手かに分かれて修業し、毎週末集まっては今後どんなビジネスをしていくか、作戦会議をしていました。そうして2年後のオイシックスの創業へとつながっていくんです。

Sioオーナーシェフ

鳥羽周作

とば・しゅうさく

昭和53年埼玉県生まれ。Jリーグの練習生、小学校教員を経て、31歳で料理人の世界へ。平成30年東京・代々木上原にオープンしたレストラン「sio」は、ミシュランガイド東京2020から3年連続で一つ星を獲得。その他「o/sio」「純洋食とスイーツパーラー大箸」なども運営。令和3年より松屋の公式アンバサダー、ユーグレナのコーポレートシェフも務める。TV、書籍、YouTube、SNSなどでレシピを公開し、レストランの枠を超えて「おいしい」を届ける。著書に『本日も、満席御礼。』(幻冬舎)など。