2019年1月号
特集
国家百年の計
私の提言③
  • 東京大学名誉教授月尾嘉男

人工知能が拓く日本の活路

凄まじいスピードで進化を続ける人口知能。その影響は私たちの日常生活や仕事などあらゆる分野に及び、さらに国家の盛衰を左右するまでになってきている。日本はどう人工知能に向き合い、活用していけばよいのか、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏に伺った。

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画期的な技術ディープラーニング

将棋や囲碁いご棋士きしに勝った、あるいは自動翻訳や自動運転、AI兵器が実現するかもしれないなど、いま人工知能が私たちの生き方を大きく変えようとしています。 

人工知能という言葉が初めて使われたのは、1956年にアメリカのダートマス大学で開かれたある会議でした。そこでクロード・シャノンやマービン・ミンスキーなど、コンピュータサイエンスの最先端をいく若手学者が集まり、これからどのようにコンピュータを活用するかが話し合われました。

その中で一つの大きな目標となったのが、「人間の思考をシミュレートできるプログラムをつくろう」ということで、「artificial intelligence(AI)」と名付けられたのです。しかしそれ以降、人工知能分野で周囲が納得する成果はなかなか出ませんでした。

人工知能が初めて世間の注目を集めたのは、1997年。ロシアのガリル・カスパロフというチェスの世界チャンピオンにコンピュータが勝利した時です。そして同年にオセロ、2013年には日本棋院のトップ棋士5人に3勝1敗1分けで勝利します。以後、将棋では人間がコンピュータに勝つことはほとんどなくなりました。

次は囲碁だということで、2014四年に日本人がつくったプログラムと囲碁のプロ棋士が対戦したのですが、人工知能が完敗。その理由は、将棋が9×9マスなのに対し、囲碁は19×19目で戦法がけた違いに多いからです。

いくら人工知能でも、囲碁では人間に当分勝てないと思われたのですが、その2年後、グーグルの関連会社が開発した「アルファGO」が世界チャンピオンの韓国のイ・セドルに勝利します。翌年には、世界トップクラスの中国の柯潔かけつと3回対戦して3回とも勝ってしまいました。

4段程度の棋士にも完敗した人工知能が、わずか2年後に世界チャンピオンに勝利できた理由は、開発した会社が従来とはまったく異なる人工知能の学習方法「ディープラーニング」を応用したからです。

従来の人工知能では、人間が膨大な時間を掛け、将棋や囲碁の過去の棋譜を一手一手入力して教えていました。ところが、ディープラーニングでは、棋譜きふをコンピュータに読み込ませると、1秒に1,000局くらいの超高速で自動的に戦法を学習していきます。このディープラーニングによって人工知能は一気に進化していったのです。

東京大学名誉教授

月尾嘉男

つきお・よしお

昭和17年愛知県生まれ。40年東京大学工学部卒業。46年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。53年工学博士(東京大学)。都市システム研究所所長、名古屋大学教授等を経て、平成3年東京大学工学部教授。11年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。15年東京大学名誉教授。その間、総務省総務審議官を務める。著書に『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)など。