2018年5月号
特集
利他りたに生きる
対談
  • 大幸薬品社長柴田 高
  • アース製薬社長川端克宜

企業発展の要諦は、
利他の心にあり

100年以上続く伝統薬「正露丸」の効能を科学的に明らかにし、さらに二酸化塩素の特許技術で「空間除菌」という新たな市場を開拓してきた大幸薬品社長の柴田 高氏。存続の危機にあったガーデニング事業を立て直し、国内虫ケア用品(殺虫剤)市場でトップシェアを誇るアース製薬社長に42歳の若さで就任した川端克宜氏。人々の生活に寄り添う医薬品や日用品を通じて、世の中に貢献したいという利他の思いを同じくするお2人に、人生と企業発展の要諦を語り合っていただいた。

この記事は約25分でお読みいただけます

感染症と闘う地球防衛軍

柴田 川端さんとの最初の出逢いは、確か2008年頃でしたね。
関西のドラッグストア関係の講演会で、「二酸化塩素の新しい技術があれば、インフルエンザの感染拡大を防げるかもしれない」といったお話をさせていただいたのを、川端さんが会場で聴いていらっしゃったのですね。
当時、当社は二酸化塩素を溶液・ゲル中に一定の濃度で長期間保持する特許技術を活用して、空間や物体のウイルス・菌・ニオイを除去する衛生管理製品のブランド「クレベリン」を2005年に立ち上げたばかりでした。

川端 講演の時は、私がまだ大阪支店長をしていた時でしたね。

柴田 私の講演を聴いて、二酸化塩素の技術について「これは面白いな」「これは何かが起こるな」と記憶していただいてね。
その後、別の集まりでたまたま一緒になった時に、社長になっていた川端さんから「私たちも二酸化塩素に取り組みたいけど、特許などの関係があって、ハードルが高い」という話が出たので、「それなら一緒にやりましょうよ」と逆に私のほうから申し上げた。

川端 ええ、そうでした。

柴田 それで2016年7月に資本業務提携契約を結ぶことになって、翌年1月には「クレベリン トイレの消臭除菌剤」を共同開発して、その後もグループ会社のアース・ペット(当時ジョンソントレーディング)様とペット用の除菌・消臭製品などを開発・発売していく流れになったのですよね。

川端 柴田さんは科学的なエビデンスを交えて話すのが上手ですから、その頃はまだいまほど二酸化塩素は世の中に広まってはいませんでしたけど、「あ! すごいな」と非常に印象に残ったのですよ。
当社で行った二酸化塩素の研究でも、データ上はこれだというものは分かっていたのですが、社員からは「やれません」と。なぜだと聞いたら、「どの角度からいっても大幸薬品さんの特許でガチガチです」と(笑)。それなら、だめ元というか、柴田さんに一緒にやれるかどうか聞いてみようということだったのです。

柴田 私は二酸化塩素の出口戦略を考えた場合にね、やっぱり、同じく感染症と闘っている会社というのは大歓迎だったんですよ。
当社には目に見えないウイルスや菌を除去する二酸化塩素の技術があり、アース製薬様には感染症を持ってくる蚊やゴキブリといった目に見える虫系を抑える虫ケア用品(殺虫剤)の技術がある。その両社がチームを組めば様々な感染症から身を守り、世界中の人々の健康に貢献できるのではないかというイメージがありましたね。

川端 本当にそのとおりで、当時はデング熱など蚊を媒介にした感染症が話題になっていた時でしたから、当社としても「どうにかしたい」という思い、使命感がありました。
で、どうせやるなら感染症に対する思いを共有し、技術もシナジー効果でお互いに高め合える企業がいいということですね。

柴田 私たちはこの地球上に住んでいる限りは、植物や動物、あるいは昆虫、微生物などとうまく付き合っていかないと、人間の生命を脅かす感染症や病気が発生しかねません。ある意味、人類の脅威は感染症ですから、人間もそれこそ「地球防衛軍」を組んでね(笑)、しっかり対応していかないといけません。
新しい産業、感染症予防産業をつくるくらいのビッグピクチャーを描いて、これからも川端さんとともに取り組みを進めていきたいと思っています。

大幸薬品社長

柴田 高

しばた・たかし

昭和31年大阪府生まれ。川崎医科大学卒業。医師免許取得後、大阪大学医学部第二外科に入局。大阪府立千里救命救急センター等に勤務後、62年大阪大学医学博士取得。大阪府立成人病センター外科医員、市立豊中病院外科部長を経て、大幸薬品の研究所にて「正露丸」の安全性及び二酸化塩素研究を指導。平成16年大幸薬品取締役副社長、22年6月より現職。27年7月一般社団法人日本二酸化塩素工業会会長に就任。29年6月大阪大学大学院医学系研究科招聘教授に就任。

人の3倍の努力が人生を切り開く

川端 柴田さんは、もともとは外科医としてご活躍されていたそうですね。

柴田 私は「正露丸せいろがん」の製造・販売を行う大幸薬品創業家の3男として生まれたのですが、幼い頃に「大幸薬品の社長になる」と両親に伝えたら、「老舗に兄弟が多いのはめ事のもとだ。自分の道を探しなさい」と言われました。
それで子供ながらにかっこいいと思う仕事、パイロット、レーサー、外科医の3択に職業を絞りましてね(笑)。結果的に外科医になることを決め、国立を受験する学力はなかったものの、私立の川崎医科大に合格して進学しました。
ただ、私立といっても同級生たちは皆優秀でした。その中で国立の医学部に落ちて川崎医科大に来た友人が言った「結果は能力×時間だ」という言葉が非常に心に響きましてね。

川端 結果は能力×時間。

柴田 というのも、私は数学の試験なんかでも、応用になると全然だめで、多少暗記ものができるくらいでした。兄たちにも「たかしは出来が悪い」といつも言われていました。
それが友人の「結果は能力×時間だ」という言葉を聞いて、自分のような頭の回転の悪い人間であっても、頭のよい人の3倍の努力をすれば絶対に勝てるはずだと、1日16時間の猛烈な勉強を始めましてね。医学の知識を二度と忘れないくらいに頭にきっちりファイリングすることができ、最終的に3番の成績で卒業することができたのです。

川端 1日24時間しかない中で、16時間とはすごいですね。

柴田 確かに長時間の勉強はつらかったですが、人間は辛い出来事は覚えて、楽しい出来事はすぐ忘れてしまうでしょう? 勉強も同じで、辛い思いをして覚えたことは忘れません。
また、ある種のコンプレックスをばねにして人の3倍の努力をすれば、人間も昆虫と同じように背中の殻がぱかっと割れ、まるで変態するかのように頭の構造を変えることができるというのが私の実感です。

アース製薬社長

川端克宜

かわばた・かつのり

昭和46年兵庫県生まれ。平成6年近畿大学卒業後、アース製薬入社。18年広島支店長、23年役員待遇大阪支店長。25年取締役ガーデニング戦略本部長として当時業績が低迷していたガーデニング事業の立て直しに尽力する。26年より現職。