現在、日本外交は非常に難しい状況に置かれています。中国はわが国固有の領土である尖せん閣かく諸島を「自分のものだ」と主張し領海侵犯を繰り返す〝ならず者外交〟を展開しています。北朝鮮による拉致問題は依然解決しないどころか、実験と称してミサイルを日本近海に撃ち込んでいます。韓国にしても大統領が代わるたびに日本に難題をふっかけてきます。このような厄介な隣国を抱える中、日本外交はほとんど打つ手なしという状態です。これを令和の危機と言っても言い過ぎではないでしょう。

日本人の外交ベタは昔から言われていました。陸続きのヨーロッパ諸国と違い周囲を海で囲まれた日本は長らく外国との付き合いがなく、徳川時代には鎖国をして外国との交わりを断っていたからです。その中で、幕末に欧米列強が押し寄せてきたため、近代の百数十年間は試練の連続でした。

明治の日本外交には2つの大きな課題がありました。1つは不平等条約の改正問題、もう1つは朝鮮問題です。この2大外交課題に立ち向かったのが陸む奥つ宗むね光みつと小村寿太郎でした。

陸奥宗光は日清戦争の時の外務大臣で、戦争を勝利に導く上で大きな役割を果たしました。治外法権の撤廃も陸奥の大きな実績です。一方の小村寿太郎は日露戦争の外交を担当し、開戦外交と終戦外交を共に成功させました。日本は日露戦争の勝利によって一躍世界の一流国として国際舞台に登場しますが、そこに果たした小村の外交的役割は陸奥宗光を上回るものでした。また、第2次桂内閣の外相時代には不平等条約のもう1つの問題であった関税自主権を回復させました。これにより日本は完全に欧米列強と対等な立場になったのです。

小村が関わった日露戦争は明治の一大国難と言ってよいものでした。本来であれば勝ち目がなかった戦争に勝てたのは、政治外交戦略と軍事戦略がうまく調和した結果です。戦争で勝っても政治外交に失敗すれば、せっかくの勝利は無に帰してしまいます。その見本が日清戦争です。日清戦争は軍事的には完全勝利しましたが、日清講和条約で割譲かつじょうされた遼リャオ東トン半島を露・独・仏の三国干渉により返還せざるを得ませんでした。小村寿太郎は外交官として大変な屈辱を受け大いに反省しました。それが日露戦争に生かされたのです。

この時の小村の働きは、軍事における国民的英雄である陸軍の乃木希まれ典すけ、海軍の東郷平八郎の二人に勝るとも劣らないものでした。小村の外交なくして日本が欧米列強と肩を並べることはなかったし、現在の日本もなかったのです。