2016年9月号
特集
恩を知り
恩に報いる
インタビュー③
  • 谷井農園代表谷井康人

決して妥協しない。
やり抜くことで
本物を生む

和歌山の小さな農園でつくられるみかんとフルーツジュースに、いま熱い視線が注がれている。農園を営むのは谷井康人氏。父親から引き継いだみかん農園の未来を開くため、栽培や販売のあり方を懸命に模索し、一流ホテルも絶賛する商品を生み出してきた。その足跡と、仕事に懸ける思いをお話しいただいた。

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厳しい品質要求をクリアして

──谷井さんの農園でつくられる生搾りのフルーツジュースが、大変評判になっているそうですね。

僕は家業のみかん農園を引き継いでから30年以上、化学肥料や農薬に頼らない、糖度の高いみかんづくりに取り組んできました。ですからジュースも、市販の人工甘味料漬けのジュースと違って、天然果汁100%の体にいいストレートジュースにこだわってつくっているんです。
20年前に個人のお客様向けに販売を始めた頃は、初歩的なものしかできなかったんですが、試行錯誤を重ねて10年くらい経った頃から一流のホテルやレストランからもお声掛けいただくようになりました。いまはパークハイアット東京様、ザ・ペニンシュラ東京様、フォーシーズンズホテル丸の内 東京様、セントレジスホテル大阪様、三重のアマネム様といった、外資系のホテルにお納めしています。また、アマン東京様とはフルーツジュースの共同開発から製造、デザインまで手掛けさせていただいているんですよ。

──一流ホテルでは、高品質なものが求められるのでしょうね。

ええ、キャップに小さな傷が1つあっただけでも返品されるんです。ジュースを搾る時も、種のかけらが1つでも残っていたら異物だと誤解されるおそれがあるので、たとえ1ミリに満たないものも見逃さないようにしています。
でも一流ホテルと取り引きさせていただくことで、うちのジュースのブランド力も飛躍的に高まりました。アマン東京様なんか、客室で谷井農園の紹介までしてくださっていて、そこからたくさんご注文をいただいています。宣伝効果が大きくて、本当にありがたいことです。

──ジュースの元になる果物は、どのくらいの規模の農園でつくられているのですか。

7ヘクタールです。みかんの木がたぶん1万本くらいあると思いますけど、これを3人で管理しています。それからジュースの製造のほうは13人でやっています。
いまは生食用の果物よりも、ジュースのほうに力を入れていらっしゃるのですね。
谷井 はい。実は、僕がみかんづくりを手掛けるようになって7、8年目くらいから天候が思わしくなくなって、糖度の高いみかんが取れにくくなったんです。
そもそもみかんって、本当にいいものは3割くらいしかできないんです。流通業界も、傷があったり形がよくなかったりしたら受けつけてくれませんから、7割くらいは加工用として安く売るか、捨ててしまうしかないんですね。それでも自然に任せてつくったみかんには十分な滋味がありますから、それを生かせるジュースのほうに少しずつ移行していったんです。
農家が農作物を生産するだけでなく、加工品の製造、販売や飲食業を手掛けることを「六次産業化」っていうんですけど、そういうのを始めたのは、たぶんうちが一番早かったんじゃないかと思います。

谷井農園代表

谷井康人

たにい・やすひと

昭和41年和歌山県生まれ。アメリカ留学中、父の病で中退し、家業のみかん農園を継ぐ。伝統農法にこだわった糖度の高いみかんづくりや、市場に頼らない個人通販で躍進。さらにジュースやジャムも手掛け、一流ホテルで採用され高い評価を得る。掃除大賞2015で「農林水産大臣賞」受賞。著書に『奇跡のみかん農園』(SBクリエイティブ)がある。