2020年3月号
特集
意志あるところ道はひらく
対談
  • (左)スノーピーク社長山井 太
  • (右)ハードオフコーポレーション会長山本善政

経営とは意志である

「お客様のウォンツとニーズに従う」という思いのもと、全国約900店舗のリユースショップを展開するハードオフコーポレーションの山本善政会長。「人間性の回復」をキーワードに、アウトドア事業を通じて新しいライフバリューを提案しているスノーピークの山井太社長。共に新潟発の零細企業を業界のリーディングカンパニーに育て、世界を舞台に活躍し続けるお二方に、いかに経営を伸ばしてきたのか、その志と挑戦の軌跡を伺った(写真:ハードオフコーポレーションの会長室にある富士山の絵画の前で)。

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上場とは真剣勝負の世界

山井 山本さんと初めてお会いしたこの部屋(ハードオフコーポレーションの会長室)で、きょうは対談ができるというので楽しみに参りました。

山本 確か山井さんの会社が上場する3~4年前でしたよね。

山井 2010年か2011年ですね。ある時、証券会社の営業マンに「売上高が30億円になったら上場するか検討しようと思っている」と話したところ、「それなら新発田しばたに行きませんか? 同じ新潟県の一部上場企業であるハードオフコーポレーションの山本さんにぜひ会ってください」と言って、僕をここに連れてきたんです。
その時の最初の会話は忘れもしません。開口一番、「お前、経営者だよな」と聞かれて、「はい、経営者です」と答えると、「お前、男だよな? 男ならなぜ一部上場を目指さないのか!」と。いきなりそう言われたのでカチンときて(笑)、その場で「上場します」と啖呵たんかを切ってしまいました。

山本 山井さんには理屈で言うより体感させたほうがいいと思い、上場の時にもらったたて打鐘だしょう用の木槌きづちなどをまず持たせて……。

山井 「これが上場の重みだ」みたいな(笑)。山本さんの話を伺う中で、それまでぼやっとしていた上場というものを、明確に意識したことを覚えています。

山本 実際に上場を果たしたことによって、おそらく当初思っていた何倍ものバリューを感じているのではないですか?

山井 その通りです。上場当時、2014年の売上高は57億円でしたが、いま約140億円(2019年12月期予想)になりました。上場していなかったら70億円くらいだったと思います。
上場してから5年間、何度も自社のことを客観的に見つめ直しましたし、投資家にも分かるような言葉で自分たちの思いを言語化し、ポテンシャル(潜在力)を顕在けんざい化させることを追求してきたので、それはすごくよかったですね。
同時に、上場企業の責任の重さも痛感しています。同じことをやるにしても、求められる精度の高さや結果へのコミットメントはまったく異なります。100やると公言したことが90しかできなかったら、未上場の場合は「残念だったね」と反省して終わりますけど、上場の場合は社会的責任が問われる。経営とは真剣勝負の世界であると改めて実感しています。

ハードオフコーポレーション会長

山本善政

やまもと・よしまさ

昭和23年新潟県生まれ。45年拓殖大学卒業後、スーパーマーケット「よしや」入社。47年サウンド北越を設立。平成5年リユース品の仕入れ販売を行うハードオフに業態変更。7年ハードオフコーポレーションに商号変更。12年ジャスダック上場、17年東証一部上場。

海外を舞台に挑戦し続ける

山井 山本さんとは初対面の時からお互いに率直な話をしていましたが、そういう間柄ってあまりないと思うんです。一生の間で後にも先にもないかもしれないと思うほど、貴重な出逢いでした。

山本 私はオーディオ・楽器・本・ゲーム・パソコン・家具など幅広い中古品の買取りや販売をしており、2000年にリユース業界で初めて上場しました。その経験から、やっぱり新潟の若い経営者に一人でも多く上場してもらいたいと思っていたので、山井さんとご縁をいただけたのはとても嬉しいです。

山井 山本さんが代表幹事を務める新潟経済同友会に入れていただいたり、山本さんが主宰しているワールドビジネス研究会にも参加させていただいたり、とても勉強になっています。僕は昨年から拠点をアメリカのポートランドに移し、海外でのアウトドア事業を本格化させようと考えていますが、ハードオフさんも最近は海外展開に注力されていますね。

山本 2017年にハワイに出店したのを足掛かりに、現在カリフォルニア州、台湾にそれぞれ2店舗ずつあり、フランチャイズではカンボジアに4店舗あります。
やっぱり、アメリカはポテンシャルが高いですね。もともとアメリカにはリユース文化はあったんですけど、寄付が中心でハードオフのようなビジネスモデルはありませんでした。ですから、買い取りから始め、リペア・リメイクを施し、付加価値をつけて再度商品化するというビジネスは非常に可能性を秘めている。オープン時に行列ができるなど、多くのアメリカ人が利用してくれています。

山井 アウトドアも海外マーケットのほうが圧倒的に大きいですね。
アメリカでは、国民の約半分が過去1年以内にキャンプに参加したことがあるほどキャンプ需要は大きいものの、スノーピーク流のおしゃれで豊かなキャンプはまだない。一度人気に火がいたら、大変な波及はきゅう力があると思います。
今年の5月中旬にはポートランドに総床面積400坪の大型施設をオープンする予定です。キャンプ用品やアパレルを取りそろえたお店、レストラン、スノーピークのアメリカ本社をそこに集結させ、アメリカの人たちにスノーピークブランドを伝えるスポットにすると。
現在、売上高の8割が国内で2割が海外ですが、僕がリタイアする時までにはこの比率を5対5にしたいと思っています。

山本 うちはアメリカでは「エコタウン」というブランドで出店しているわけですけど、今度、アメリカのどこかのショッピングモールで、エコタウンの隣にスノーピークの店があるなんていうことが実現できたらいいですね。

山井 それはワクワクしますね。ぜひやりたいです。

スノーピーク社長

山井 太

やまい・とおる

昭和34年新潟県生まれ。明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て、61年父親が創業したヤマコウに入社。平成8年社長就任と同時に社名をスノーピークに変更。26年マザーズ上場、翌年東証一部上場。著書に『スノーピーク「楽しいまま!」成長を続ける経営』(日経BP社)など。