2018年1月号
特集
仕事と人生
  • アイウィル主宰染谷和巳
我が人材育成論

仕事観の確立が人を育てる

「働き方」が問われる時代となった。労働時間短縮の流れもここにきて一気に加速してきた感がある。長年、多くの人材育成に携わってきたアイウィル主宰・染谷和巳氏は、この風潮に警鐘を鳴らし、いま一度、仕事の原点に立ち返らなくてはいけないと説く。会社を発展させ社員を幸せに導く仕事観とはどのようなものなのだろうか。

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このままでは日本は衰退する

いま、過労死が大きな社会問題となっている。報道によると、自殺した大手広告代理店の女性社員の残業時間は月に100時間を超え、深夜残業、早朝、土日出勤が続いていたという。そのために女性社員はうつ状態にあったそうだ。マスコミは一斉にこの大手広告会社をブラックと断じて糾弾した。

この会社が本当に社員を死に追い込むほどの過酷な労働を強いていたとすれば、やはり管理者の責任は免れない。しかるべく企業体質を改めなくてはいけないのが道理である。

ただ、残念なことには一連の報道からは、会社とは何か、働くとはどういうことか、という本質的な議論がまったく聞こえてこないのだ。会社は加害者という一方的な視点で塗り固められ、悪者としての姿ばかりが強調される。

私が恐れるのは、仕事本来の意義を忘れて、会社イコール悪という偏ったストーリーが組み立てられ、そのイメージばかりが独り歩きすることだ。いまのこの流れを受けて労働時間短縮の動きが一気に進んでいることは周知のとおりだろう。

誤解のないように繰り返すが、目に余る過酷な労働環境は是正しなくてはいけない。それは経営者の大切な責務である。しかし、社員の労働条件を改善する一方で、経営のあり方や社員教育にもしっかり目を向けていかないと、企業自体の存立すら危うくなってしまう。

それに加えて、この流れは別の危険性も含んでいる。残業手当がいくらだとか、有給休暇が何日残っているとか、労働条件を口にする社員ばかりになってしまったら、組織としての志気は確実に落ち、業績は下がってしまう。

時代の流れの中で、経営と労働改善のバランスをどのように整えていくのか。経営者はいま新たな試練に直面している。

日本は中小零細企業に支えられて成り立っている国である。戦後日本の繁栄を牽引けんいんしてきたのも中小企業の持つ勤勉性と底力である。いま現在も、経営者は厳しい経済環境の中で日々必死で頑張っている。

もし、中小企業が立ち行かなくなってしまったら、日本にとっての一大危機である。事は一企業だけの問題ではなくなる。

そうなる前に大局観と先見性のある有為の経営者に沈黙を破っていただきたいものだと切に思う。

アイウィル主宰

染谷和巳

そめや・かずみ

昭和16年東京生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業。出版社編集長、社員教育機関勤務を経て63年アイウィルを設立。社長を経て現在主宰。著書にベストセラーとなった『上司が鬼とならねば部下は動かず』(プレジデント社)など多数。