2020年3月号
特集
意志あるところ道はひらく
インタビュー①
  • 帝国ホテル東京料理長杉本 雄

意志と情熱が
料理人の道を創ってきた

「日本の迎賓館」として明治23年に開業し、130年の歴史と伝統を誇る帝国ホテル。2019年4月、その帝国ホテルの14代目料理長に38歳の若さで就任したのが杉本 雄氏である。子供の頃から料理人の道を志し、強い意志と並々ならぬ情熱で自らの人生をひらいてきた杉本氏に、料理に懸ける思い、仕事・人生の要諦を語っていただいた。

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若い力で時代をひらく帝国ホテルのDNA

——杉本さんは昨年4月、38歳という若さで、歴史と伝統のある帝国ホテルの東京料理長に就任され、大きな話題になりました。

帝国ホテルは海外からの賓客をお迎えする「日本の迎賓館げいひんかん」として1890年に開業し、今年で130周年を迎えます。その歴史の中で、私たちは一貫してフランス料理を主体とした西洋料理を提供し続けてきました。
ですから、料理長として、私には先人が築き守ってきた帝国ホテルのフランス料理の伝統を、後世に大事に引き継いでいく責任があります。では「伝統を守る」とはどういうことか。それは単に同じ味をそのまま受け継ぐということではなく、根底にあるフランス料理の本質を守りながら、味やレシピは時代に合ったものに変えていくということです。やはり時代に受け入れられるものを取り入れていかなければ、後世に伝えていくこともできないと思うんです。

——まさに「不易流行ふえきりゅうこう」の精神ですね。とはいえ、若くしてその伝統を守り引き継ぐ立場となり、プレッシャーなどはありませんか。

プレッシャーはないです。むしろ、やりたいことがたくさんあって毎日を楽しんでいます(笑)。それに若いといっても、例えば初代の料理長・吉川兼吉かねきち氏は37歳、11代の村上信夫氏も37歳で新館料理長になっていますから、年齢は関係ないんです。
あと、もともと帝国ホテルには新しいことにチャレンジする精神、DNAが脈々と受け継がれていて、年齢関係なく時代を切りひらいていく人材に白羽の矢を立て、130年の歴史を創ってきました。確かに歴史ある他のホテルやレストランを見れば、30代で料理長というのは珍しいかもしれませんが、帝国ホテルのDNAとしては特別なことではないと思っています。

帝国ホテル東京料理長

杉本 雄

すぎもと・ゆう

昭和55年千葉県生まれ。学校法人後藤学園武蔵野調理師専門学校卒業後、平成11年に帝国ホテル入社。16年同ホテルを退職し、単身渡仏。フランスの名門ホテル「ル・ムーリス」のメインダイニングで総料理長代理、レストラン「レスぺランス」で総料理長などを経て、29年帝国ホテルに再入社。31年より現職。