2020年3月号
特集
意志あるところ道はひらく
  • 小俣幼児生活団主任保育士大川繁子

子供の未来をひらく教育

92歳のいまなお、現役の保育士として子育てにあたっている大川繁子さん。主任保育士を務める小俣幼児生活団は、規則がなくても自立した子が育つ「奇跡の保育園」と呼ばれている。モンテッソーリ教育とアドラー心理学の〝いいとこ取り〟をしたという教育法とはどのようなものか。園児一人ひとりの花を咲かせようとする大川さんが60年の実践の中で掴んだ叡智——。

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奇跡の保育園と呼ばれる理由

私が主任保育士を務める「小俣おまた幼児生活団」は最近〝奇跡の保育園〟と呼んでいただくことが増えました。栃木県足利あしかが市と都心から離れた立地にもかかわらず、多くの方が見学に来られます。「生活団」という言葉は馴染なじみがないかもしれませんが、0歳から5歳の子供を100名ほど預かる一般的な認可保育園です。

当園の教育を私は冗談で〝ほったらかし教育〟と呼んでいます。細かいルールを一切設けず、子供たちの自主性に任せていても、驚くほど自立した子に育ってくれるからです。これが〝奇跡〟と呼ばれる所以ゆえんかもしれません。

ここでは「自由と責任」を保育目標に掲げています。自由に自分の頭で考える力、それを行動にうつす力、そしてその結果に責任を持つ力を身につけてほしい。それが私たちの願いです。

小俣幼児生活団では子供だけでなく、働く保育士たちも非常にイキイキと活躍しています。一番長い保育士は、勤続年数30年以上。辞める人もほとんどいないのです。

そんな活気に満ちた小俣幼児生活団で、私は92歳のいまなお現役の保育士として働き続けています。それは保育という仕事が奥深く、ゴールがないからでしょう。毎週土曜日に1週間分の園児の日誌すべてに目を通していますが、子供たちの日々の成長に毎回感動しています。この歳になると、朝起きるのがつらいと感じる日も当然あります。しかし、子供たちが待っていると思うと、活力が湧いてくるから不思議なものです。子供や小俣幼児生活団という存在によって、元気に生かされているのだとつくづく実感しています。

小俣幼児生活団主任保育士

大川繁子

おおかわ・しげこ

昭和2年生まれ。20年東京女子大学数学科入学。37年小俣幼児生活団に就職し、47年に主任保育士となる。足利市教育委員、宇都宮裁判所家事調停委員、足利市女性問題懇話会座長などを歴任。