2022年12月号
特集
追悼・稲盛和夫
我が心の稲盛和夫②
  • ファーストリテイリング会長兼社長柳井 正

ど真剣の情熱で
可能性を信じ抜く

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好奇心が旺盛で誰にでも対等に接する人

半世紀もの長きにわたり強力なリーダーシップで日本の経済界をけんいんし、我が国の経済発展に大きく貢献され、これからのポスト・コロナ時代にますます存在感を発揮されるものと思っていただけに、突然の訃報は残念でならない。

国内外の情勢がますます混迷を深めるいまこそ、稲盛さんは必要な人物だったと思う。政治家や官僚や企業経営者が自分の利益のためだけに発言し、行動していては、日本は針路を誤ってしまう。彼はその時々の状況に合わせて真正面からじょうどうてきな正論を述べ、国全体のことを思って仕事をする数少ない企業経営者だった。

私が稲盛さんと初めてお会いしたのは、いまから9年前である。雑誌社からの依頼を受けて1時間ほど対談をした。その時に抱いた印象は、とにかく好奇心がおうせいな人だということだ。

かねてユニクロは中国を生産拠点とし、世界各国に店舗展開していた。稲盛さんが主宰する盛和塾は中国の経営者にも大変な人気で塾生が増えていた。そんな背景もあってか、「中国で成功した要因は何ですか」としきりに質問された。このような理由で成功しましたと申し上げても納得されず、何回も違う角度から聞いてこられたのである。学んで吸収しようとの思いが強くあったのだろう。

稲盛さんと私は17歳の年齢差がある。普通は年下の人にそんなことを聞かないし、反対に質問してこいという態度を取るものだ。稲盛さんは年齢や立場などにかかわらず、誰に対しても分けへだてなく対等に接する方だった。

職階に関係なく、あらゆる人とじかにコミュニケーションしていくことが企業経営者には必要だが、いまの日本の大企業の社長を見ていると、往々にしてそこが抜けている。トップの言葉が平社員まで伝わっていない。それどころか、中間管理職が自分の都合のいいように解釈し、トップがAと言ったら次の人にBと伝わり、最終的にはZになっているという有り様だ。

稲盛さんのように経営者が社員と直にコミュニケーションしない限り、全社を挙げて改革することはできない。その上、「アメーバ経営」によって平社員も含めて一人ひとりに責任を求め、役割と権限を与えた。そこが稲盛さんのとくなところであり、尊敬している。

ファーストリテイリング会長兼社長

柳井 正

やない・ただし

昭和24年山口県生まれ。46年早稲田大学卒業後、ジャスコ入社。47年同社退社後、父親の経営する小郡商事に入社。59年カジュアルウェアの小売店「ユニクロ」第1号店を出店。同年社長就任。平成3年ファーストリテイリングに社名変更。11年東証1部上場。14年代表取締役会長兼最高経営責任者に就任。いったん社長を退くも17年再び社長復帰。現在、アパレル製造小売業で売上高は世界第3位、時価総額は世界第2位。著書に『一勝九敗』(新潮社)などがある。