2018年2月号
特集
活機かっき応変おうへん
対談
  • ジャパネットたかた創業者、V・ファーレン長崎社長髙田 明
  • 経営コンサルタント、アルマ・クリエイション社長神田昌典

新時代に勝ち残る
企業のあり方

AI、IoT、SNS……。次々と巻き起こる技術革新によって、時代は目まぐるしく変化している。その中で我われはいかにして機を活かし、成長を遂げていけばよいのか。ジャパネットたかたを業界トップクラスの企業に育て上げ、サッカークラブ「Ⅴ・ファーレン長崎」の社長就任から僅か半年でJ1昇格へと導いた髙田 明氏と、先進的な手法を駆使して数々の企業の未来を開き、日本のトップマーケターにも選出された神田昌典氏が語り合う「新時代に勝ち残る企業のあり方」とは——。

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就任僅か半年でJ1昇格へ

神田 V・ファーレン長崎のJ1昇格おめでとうございます。お花を用意させていただきました。

髙田 あっ、これは(笑)。恐縮です。どうもありがとうございます。

神田 いま取材で大変お忙しいんじゃないですか?

髙田 そうですねぇ。私は4月に急にV・ファーレンの社長になったでしょう。そんな予定なかったものですから、1年のスケジュールをほとんど入れてしまっていたんですよ。だから、全然長崎に居られなくて、出張中も電話で取材に応じたりしています。
V・ファーレンは2013年からJ2に参戦していましたけど、今年(2017年)のJリーグ開幕直後、累積赤字が3億円を超え、選手に給与を支払えない事態に陥りました。私は長崎から元気印をなくすのは大きな損失だと思い、以前からスポンサーを務めていたジャパネットホールディングスで株式を買い取り100%子会社とし、再建に乗り出したんです。

神田 社長就任からたった半年でJ1に昇格されたわけですけど、これはジャパネットたかたの時と基本的には同じようなプロセスで力を発揮されていると私は思っています。これまでは家電や家具、生活雑貨などが商品だった。その商品がV・ファーレンという組織になったということです。

V・ファーレン長崎のJ1昇格が決まり、胴上げされる髙田氏

髙田 私がV・ファーレンの社長をお受けした時、「まったく経験なくて大丈夫ですか」とよく聞かれましたけど、それは大丈夫だと思っていました。結局、ビジネスもスポーツも教育も医療も政治も、何のために活動しているかと言えば、「人間の幸せ」に尽きるんです。
その視点に立てば、扱う商品やサービスが違ってもその先にある幸せをどうつくっていくかということは共通する。ミッションさえぶれなければ、サッカーのことを知らなくても勉強すればいいわけですから問題ありません。

神田 監督コーチ陣の交代や選手の大型補強は行わず、職場環境の改善に重きを置かれたそうですね。選手のモチベーションを高めるために、試合前に家電のチャリティーオークションなどのイベントを行って観客を増やしたり、自宅に選手を招待してカラオケやバーベキューをしたり。それに関して、主将が「この人のためにも戦おうという雰囲気になった」とコメントされていました。

髙田 私がやったことは本当に大したことないんです。ただ、一つ言えるのは、やっぱり人の心が変わると不可能が可能になる。これはジャパネットで経験してきたことですが、今回7か月弱でJ1昇格したことを通じて、強烈な思いや情熱は不可能を可能にする力があると改めて感じました。
私の意思とか情熱が監督やスタッフ、選手、長崎県民にも伝播でんぱし、「J1になろう。再建しなきゃいけないんだ」と。その力がだんだん一つに結集して、今回のJ1昇格が達成されたと思うんです。
もちろん精神論だけで勝てるものではなくて、監督が素地をしっかりつくってくれ、いろんな人の助けや偶然も重なったからこその結果です。だから、昇格を決めた日も言いましたが、本当に「長崎の奇跡」だと思います。

ジャパネットたかた創業者、V・ファーレン長崎社長

髙田 明

たかた・あきら

昭和23年長崎県生まれ。46年大阪経済大学卒業後、阪村機械製作所に入社し、海外勤務を経験。49年家業の写真店「㈲カメラのたかた」に入り、61年分離独立して「㈱たかた」を設立、社長となる。平成11年社名を「㈱ジャパネットたかた」に変更。27年社長を退任し、「㈱A and Live」を設立。29年4月サッカーJ2のV・ファーレン長崎の社長に就任し、同年11月J1昇格へと導く。著書に『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)『90秒にかけた男』(日本経済新聞出版社)。

目標を持たないミッション経営

神田 髙田社長は他の取材の中で、経営目標値を持たないとおっしゃっていましたね。

髙田 そうなんです。商売って、売り上げとか利益ばっかり求めていても面白くないですし、スポーツも勝った、負けただけでは長く続かない。その先に何をもたらすかという方向に進んだ時、すごいエネルギーが出てくるんじゃないかと思います。つまりそれはミッションです。

神田 ぶれない志を抱く。

髙田 私は「いまを生きる」ってことをずっと言い続けてきました。いまという瞬間を一所懸命生き続けるんだと。ジャパネットが大きくなったのはその結果です。最初からメディアミックス型の通販事業を手掛けるって考えたわけではありません。カメラ店をやっていた時にラジオに出逢った。次にテレビに出逢った。インターネットに出逢った。そうしたらいつの間にか1,700億円を超える企業になっていたんです。
V・ファーレンの社長になってからも、企業を再生しなきゃいけないってことで、一つひとつ課題をつぶしていった結果として、J1に昇格したというだけ。

神田 ということは、J1昇格は目標ではなかった?

髙田 J1になることも、試合に勝つことも、目標じゃないんです。やっぱりサッカーというスポーツを通じて、世の中の人たちに元気とか生きがい、夢、感動を伝えていく。さらにいま掲げているのは、長崎は広島と共に被爆した県ですから、「平和を発信するクラブである」と。だから、あくまで勝つことやJ1昇格は手段なんです。
私は2015年にジャパネットの社長を息子に譲って完全に経営から退き、A and Liveという会社をつくりました。何をやるかも決めていなかったんですけど、いまを一所懸命生きていれば何かお役に立てるだろうと思っていたら、取材のお声が掛かったり、講演に呼んでいただいたりしています。
目標を持つことは大事ですが、人生あまり先のことを考えても仕方なくて、いまを生きるしかないんじゃないかなって思うんです。その継続の中に人生があるような気がしてならないんですよね。

神田 髙田社長って本来すごく計画的な方でいらっしゃると思うんです。ただ、それを自分から取っていかないで、流れの中に身を置いて、来たものに対して受けて立つというか。

髙田 目標っていうのは変えちゃいけないように思っている人がいるんですけど、時代の流れの中で変化していって当たり前なんです。松尾芭蕉が「不易流行ふえきりゅうこう」という言葉を遺しているように、不易の部分がミッションであって、流行の部分が目標や手段だと。
私は結果論者みたいに言われるんですけど、そうじゃない。結果は重視しません。一番はプロセスです。プロセスで力を抜いている人や組織は絶対に目標を達成できない。いま目の前にある一つひとつのプロセスに集中する。それを重ねていくことで、最終的な人生の目標に到達できるのではないでしょうか。

経営コンサルタント、アルマ・クリエイション社長

神田昌典

かんだ・まさのり

昭和39年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒業。大学3年次に外交官試験に合格し、4年次より外務省勤務。その後、ニューヨーク大学経営学修士及びペンシルバニア大学ウォーオンスクール経営学修士(MBA)取得。コンサルティング会社を経て、平成7年米国ワールプール社日本代表に就任。10年経営コンサルタントとして独立。現在アルマ・クリエイション社長。著書に『あなたの会社が最速で変わる7つの戦略』(フォレスト出版)『都合のいい読書術』(PHPビジネス新書)など多数。