2023年9月号
特集
時代を拓く
一人称
  • 一橋大学名誉教授米倉誠一郎

時代を切り拓いた
近代日本の
イノベーターたち

明治維新、戦後復興など世界的に見て奇跡の数々を成し遂げてきた近代日本。その功績はイノベーションと呼ぶに相応しいが、それらのイノベーションはどのようにして生まれたのか。イノベーション研究の第一人者である米倉誠一郎氏に時代背景を踏まえて紐解いていただく。

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あくまで手段の一つであるイノベーション

イノベーションは単なる発明や発見とは異なり、経済や社会、さらには考え方に新たな価値をもたらす革新のことである──。

僕は1982年、一橋大学商学部附属産業経営研究所の助手に採用されて以降、歴史家として日本の近代化の歩みを紐解くと同時に、ベンチャーや社会起業家など様々な研究に没頭してきました。同年に採用された経営学者・野中郁次郎先生とは年齢がひと回り以上離れていたにもかかわらず、恐れ多くも〝同期の桜〟として可愛がっていただき、1997年には野中先生たちと共に日本で初めて「イノベーション」と名の付く一橋大学イノベーション研究センターを立ち上げました。それから30年、紆余曲折を経ながらもイノベーション研究をライフワークにしてきました。

しかし最近は、あまりイノベーションという言葉を使わないようにしています。というのも、イノベーションという言葉ばかりが独り歩きをし、それが目的語になっているケースが多いためです。イノベーションがあくまで手段に過ぎないことはこれから紹介する人物の事例を見ればよく分かります。彼らはイノベーションを目指したわけではなく、後から歴史を紐解いた私たちが彼らの行動はまさにイノベーションと呼ぶに相応ふさわしいと言っているに過ぎないのです。

ことに幕末の志士たちの変貌ぶり・革新ぶりには目を見張ります。それまでちょんまげをっていた人たちが、このままでは日本が欧米列強の植民地にされてしまうという強烈な危機感の下に立ち上がり、見事日本を近代国家たらしめました。何が彼らをそうしたのか。まずはその優れた対応力を紐解いていきたいと思います。

一橋大学名誉教授

米倉誠一郎

よねくら・せいいちろう

昭和28年東京都生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(Ph.D.)。平成7年一橋大学商学部産業経営研究所教授、9年より同大学イノベーション研究センター教授。プレトリア大学日本研究センター長、ソニー経営戦略室コ・プレジデント、アカデミーヒルズ日本元気塾塾長などを経て、現在CR-ソーシャル・イノベーション・スクール学長、世界元気塾塾長を務める。また、『一橋ビジネスレビュー』編集委員長も兼務。イノベーションを核とした企業の経営戦略と組織の史的研究を専門とする。著作に『経営革命の構造』(岩波新書)『創発的破壊』(ミシマ社)『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)など。