2017年5月号
特集
その時どう動く
対談
  • 京都大学名誉教授中西輝政
  • 「救う会」会長西岡 力

いま、日本は
どう動くべきか

イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生……
世界は動乱の只中にある。各国の思惑が激しくぶつかる国際情勢において、日本はいま、どう動くべきか──。卓越した眼力で世界の行方をウォッチする中西輝政氏と西岡 力氏に、国際情勢の裏事情や、日本を取り巻く危機の本質を交えて語り合っていただいた。

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世界は動乱の時代に

中西 いま、世界が極めて大きなスケールで変わり始めていることを実感されている方は多いと思います。昨年(2016年)はイギリスのEU離脱というショッキングな出来事もありましたが、極めつけは何と言ってもアメリカのトランプ大統領の誕生です。

西岡 世界中に衝撃をもたらしましたね。

中西 なぜトランプが選ばれたのか。まぁ対抗馬のヒラリー・クリントンがあまりに不人気だったこともありますが(笑)、これには、いわゆるグローバリゼーションという動きが、いろんな矛盾を孕んだままあまりに急激に進んだことが大きいと思います。ごく一部の人ばかりが豊かになる一方で、大量の移民や難民がやってきてテロが頻発し、一般庶民が職を失って路頭に迷うなど、様々な弊害が噴出し始めたことが背景にあるといえます。
ただ、あの大統領選挙にはロシアが干渉したとか、いろいろ不透明な部分もあって、今後その正当性について弾劾の動きなどが出てくる可能性もあります。ですから、そもそもトランプ政権が4年間もつのか、そして4年後に再選されるのか、これらについては、かつてない大きなクエスチョンマークがつくと思います。

西岡 トランプが選ばれた要因をもう一つつけ加えるとすれば、グローバリゼーションに伴って文化的反体制勢力が世界中の先進国に蔓延って、それぞれの国の建国の精神や、よき伝統を否定する運動をしていることです。
そのためいまのアメリカでは「メリー・クリスマス」も言えなくなっていますし、真面目に働いて、日曜日には教会に行き、男女が結婚して子供を一所懸命に育てるといった、これまでのごく常識的な生き方まで否定されている。女同士、男同士の結婚もあるし、トイレも男女兼用のものをつくるべきだといったおかしな考え方が蔓延してきているわけです。

中西 ある意味、戦後日本のおかしな風潮を後追いするようなところがあったわけですね。

西岡 アメリカの一般庶民はこれまで、そうした少数者の意見にずっと我慢してきたんですが、あまりにも酷くなってきた。それで、それを少し乱暴な言葉で否定できるトランプに人気が集まったわけです。トランプの当選によって、それぞれの国や民族が節度を持って、礼儀を尽くしながら、しかし自己主張する方向に向かうのだとすれば、悪くはないんじゃないかとも私は見ています。
ただ、アメリカがかなり急激にハンドルを切りましたから、この先の世界の秩序を保っていくのはなかなか大変ですね。世界はまさに動乱の時代に入ったと言えます。

京都大学名誉教授

中西輝政

なかにし・てるまさ

昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。平成2年石橋湛山賞。9年毎日出版文化賞、山本七平賞。14年正論大賞。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(ともに致知出版社)など。最近著に『日本人として知っておきたい「世界激変」の行方』(PHP新書)がある。

日本の運命を握る米中関係

中西 アメリカがどう動くかは、日本にものすごく大きな影響を及ぼしますから、日本もしっかり備えなければなりません。
その点で、2月の日米首脳会談は戦術的にはかなり上手くいったと言っていいでしょう。いまのところ、確かに日本はアメリカに見捨てられたらおしまいという、安全保障上の決定的弱点を持った国ですから、もしトランプが「日本の貿易黒字はけしからんから、自動車の輸出を止めろ。さもなければ尖閣諸島がどうなっても知らないぞ」などと、経済と安全保障を絡めてくるんじゃないかという危惧がありましたが、とりあえずは上手く切り抜けることができました。
ただ、トランプという人はビジネス出身で、交渉だけの人ですから、いつ何時要求を変えてくるかもしれません。今回は安倍さんと仲良くゴルフをしましたが、豹変する可能性は十分ありますよ。そもそも、安倍さんとの首脳会談の直前に習近平と長々と電話会談して、日中を天秤にかけるようなことをやっているわけですから、あまり信頼できるとは思えませんね。

西岡 ただ、『産経新聞』の阿比留記者の記事によると、大統領選直後にトランプタワーで2人が面会した時に、安倍さんが「あなたは『ニューヨークタイムズ』に酷い目に遭ったけれども、私もその『ニューヨークタイムズ』と提携している『朝日新聞』に酷い目に遭いました。しかし私は『朝日新聞』に勝ちました」と言って、トランプが非常に喜び、2人は意気投合したそうなんです。
安倍さんは当初、歴史修正主義者と言われていました。ナチスドイツを称賛する非人道的な人間と同じだというんですが、実際は自国を愛する愛国者なわけですよ。同様に『ニューヨークタイムズ』はトランプのことを「差別主義者」と書いた。要するに2人は、自虐的な思想を持っている勢力と戦っているという点で一致したわけです。

中西 そうなったのは2つ原因があると思うんです。1つは、先ほど西岡先生がおっしゃったアメリカ国内に広がった異常なリベラリズムです。『ニューヨークタイムズ』はその代表格ですから、安倍さんが国の指導者として少しまともなことを言い出したら、そこと提携している『朝日新聞』が「歴史修正主義者だ」と言い始めたわけですね。
もう1つ、日本の歴史認識について攻撃してきた外国のメディアは、中国の宣伝に乗っかってしまっているんです。中国はアジアにおける主導権を握るために、歴史問題を使って日米を分断し、日本を孤立化させようと考えているわけです。
ですから日米関係で一番問題なのは、結局米中関係なんです。米中関係が日本の運命を決めるといってもいい。歴史問題を論じても、経済、安全保障、領土問題、何を論じても、すべて米中関係という大きな枠で日本の進路は決まってしまうのが現状です。
特にオバマ政権の時代は、歴史問題では中国と組んで中韓側の言うことが正しいみたいなことをアメリカが言い出す状況でした。大切な歴史問題で、そのアメリカ政府の圧力に屈したので、安倍さんの「戦後七十年談話」や「日韓慰安婦合意」には私はとても批判的なのです。
こうなった以上は、日本は自力をつけてアメリカへの依存を少しでも減らす努力をしないと、自前の歴史観を取り戻すことはできません。

「救う会」会長

西岡 力

にしおか・つとむ

昭和31年東京都生まれ。国際基督教大学卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。平成2~14年、月刊『現代コリア』編集長。29年3月まで東京基督教大学教授。現在は、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」会長、麗澤大学客員教授・モラロジー研究所歴史研究室長。平成26年正論大賞受賞。著書に『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今しかない』(PHP研究所)など。