2018年5月号
特集
利他りたに生きる
インタビュー②
  • TFG(田川ふれ愛義塾) 理事長工藤 良

どん底の中で
私が掴んだ希望の光

暴走族元総長の奇跡の再起物語

14歳で暴走族の最年少メンバーとなり、18歳で総長に。窃盗や恐喝、覚醒剤の転売で生計を立て悪名を轟かせてきた工藤 良氏は、21歳の時の逮捕を機に、自ら改心しただけでなく、ボランティア団体を設立し、仲間までをも改心させた。その後は地元に更生保護施設を設立し、多くの子供を救ってきたが、工藤氏を支えたものとは何だったのか。奇跡の再起物語を伺った。

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    更生保護の現場で生きる

    ——福岡県田川市で、元暴走族の総長が更生保護施設を運営されていると伺い、お訪ねしました。

    田川ふれ愛義塾が認可施設になって今年(2018年)で10年目を迎えます。当初は関係機関が集う会議の場で「逮捕される側だった人間がなんでここにいるんだ」と白い目で見られ、認可を受けても数年間はオブザーバーとしてしか扱われませんでした。ただ、応援してくれる方もたくさんいて、いまでは九州の更生保護施設の広告塔と言っていただけるようになって、現場目線の意見を行政に伝えています。
      
    ——ここにはどういった方が来られるのですか?

    窃盗せっとう、放火、暴力団の末端、暴走族、傷害事件を起こしてしまった人など様々で、いまは中学3年生から23歳までの28名の男女が生活しています。皆に共通していることをひと言で表すとしたら、それは愛情不足。ほとんどの家庭が崩壊していて、実の親から覚醒剤を打たれたり、性的虐待を受けていた子もいます。
    ですから、働けるようにしたり、勉強をするようにしたりというのは二の次三の次で、まずはスタッフと話して人間関係を築くところから始めます。毎朝8時に起床して、自分たちでご飯をつくって、掃除もするという規則正しい生活を送りながら、独り立ちできるよう指導しています。
      
    ——自立を促す訓練所なのですね。

    はい。高校に行くのか、仕事でお金を貯めて自立するのか、着地点は子供によって異なり、ここで生活する期間もばらばらですが、大体1年~3年で100万円ほど貯めて卒業していきます。
    こうした更生保護施設は全国に103か所あるんですけど、少年専用の施設はここを含めてたった3つしかありません。再犯を防止するには、まだ柔軟性のある若いうちから軌道修正していく必要があるのに、そのための施設が圧倒的に不足しているんですね。
    加えて、更生保護職員の給料は介護サービスと比べてもかなり低くて、常に人手が足りていません。住居と食事を提供する場所としての役割は十分かもしれませんが、更生という面から見ると手厚いケアができず、結果的に再犯を繰り返す人も少なくありません。
      
    ——更生させようと思っても、限界がある。

    私の感覚ですが、表沙汰おもてざたになっていないだけで8割は再犯していると思います。そうした現状を改善しようと、市民や行政を巻き込んだ活動を行っているんです。

    TFG(田川ふれ愛義塾) 理事長

    工藤 良

    くどう・りょう

    昭和52年福岡県生まれ。中学2年で暴走族「極連会」の最年少メンバーとなる。18歳で3代目総長に就任。平成10年覚醒剤使用の現行犯で逮捕されたことを機に、生き方を180度変える。14年「極連会」を解散し、ボランティア団体「GOKURENKAI」を結成。18年田川ふれ愛義塾設立。20年NPO法人化。21年法務大臣より継続保護事業の経営認可を受ける。24年天皇陛下より御下賜金を拝受。著書に『逆転のボランティア』(学習研究社)がある。