2018年5月号
特集
利他りたに生きる
インタビュー③
  • 埼玉県立小児医療センター集中治療科科長兼部長植田育也

こどもの命を救う
小児集中治療に道を拓く

医療の充実した今日の日本でも、こどもの死亡率は他の先進国に比べて高いという。この現状を変えるべく、瀕死のこどもを救う小児集中治療の普及に尽力してきたのが植田育也氏である。24時間態勢の過酷な現場を担う植田氏に、この医療に懸ける思いを伺った。

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年間1,600人24時間態勢で救う

——植田さんは、日本ではまだ少ない小児の集中治療に携わっておられるそうですね。

はい。病院の診療というのは一般に心臓の専門だったり脳の専門だったり、臓器別に細分化されています。けれどもそれとは別に、病気にしろ怪我けがにしろ、命に関わるほど具合の悪くなった救急の患者さんを一手に診る集中治療室(ICU)というのがあります。
その中で私が携わっているのは、中学生までのこどもを対象とする小児集中治療(PICU)なんです。
  
——例えば、どんなこどもたちを診るのですか。

一つは、大きな手術をした後のこどもです。それから、他の病院から救急で送られてくる重症のお子さん。さらに、この病院で白血病や心臓病などの難病で療養をしていて、容態が急変した子。そういう子たちを一手に引き受けて命を救うんです。
私が20年前にアメリカから帰ってきた頃、PICUは日本にまだ一か所しかありませんでした。いまは14か所くらいまで増えていますが、まだまだ全国をカバーできる数ではありません。
WHO(世界保健機関)の統計では、日本の一歳から四歳までの小児の死亡率は世界の先進国の平均と比べて高いんです。原因は一概には言えませんが、他の国ではPICUが整備されていて、小児の重症患者がそこで治療を受けられるのに対して、日本では小児集中治療が医療の分野として確立しておらず、患者さんは成人を診る救命センターや大病院の小児科でバラバラに対応していることも要因の一つになっていると思うんです。
  
——いまは年間でどのくらいの小児患者さんに対応なさっているのですか。

この埼玉県立病院にPICUを立ち上げたのが一昨年(2016年)の末ですから、やっと1年経ったところなんですが、その間に1,600人の小児患者さんを診てきました。
  
——1,600人とは大変な数ですね。

埼玉県では私どもの病院に14床、それから川越にある埼玉医大の総合医療センターで8床、合計22床で県内の小児の患者さんを24時間受け入れています。救急車で搬送されてくる子ばかりでなく、地域の医療機関へ重篤じゅうとくな患者さんをドクターカーで当科スタッフがお迎えに行って、集中的な治療を施した上で当院に搬送してくるケースもあります。
夜中の2時でも3時でも対応するわけですが、スタッフが疲れてしまうと致命的なミスにつながります。そこで、2交代制を敷いて、常にフレッシュな頭脳と体をもってベストな対応ができるようにしているんです。

埼玉県立小児医療センター集中治療科科長兼部長

植田育也

うえた・いくや

昭和42年千葉県生まれ。平成3年千葉大学医学部卒業。以後、千葉大関連施設にて小児科研修。6~9年、米国(オハイオ州)シンシナティ小児病院にて小児集中治療の専門研修、および小児科シニアレジデント研修。9年に帰国し、以後、長野県立こども病院、静岡県立こども病院にて、小児集中治療室(PICU)の設立にかかわる。27年に現任地へ赴任。28年12月に新病院移転を機に、小児救命救急センター・PICUを開設、運営。