2021年8月号
特集
積み重ね 積み重ねても また積み重ね
インタビュー③
  • ヒルマ薬局薬剤師比留間榮子

97年間、
一日一日を大切に歩み続けて

現役薬剤師からのメッセージ

「何気ない日常が本当の幸せ」「大事なのは何事も積み重ねること」。そう語るのは、現役薬剤師として薬局に立ち続ける比留間榮子さん、97歳。ヒルマ薬局の2代目として、戦争や家族の病、死を乗り越えてきた日々を伺った。そこには、この混迷の時代を生き抜くヒントが詰まっている。

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ギネス記録に認定された最高齢の現役薬剤師

——比留間さんは97歳のいまなお、現役薬剤師として薬局で働き続けていらっしゃるそうですね。

毎日毎日、私にとっては当たり前の日々を積み重ねてきただけなんです。改めて皆さんの役に立つお話ができるかどうか……。
だけどね、こうやって振り返ってみると、もう97年も生きたのかと自分でも信じられません。私たちの年代は、戦中・戦後と本当に大変な苦労を味わってきました。お金があっても食べるものに困ったし、焼夷弾しょういだんが雨あられと降ってきた。いまそういうお話をしても、嘘のように聞こえてしまうかもしれませんが、本当の話なのよね。現実にこの目で見てきたんですもの。

——当時を克明に知る人も少なくなってきています。

長野県の奥地に疎開していた頃なんか、お米を一斗いっと(十しょう、約15キログラム)背負って、普通にひと山越えて運んでいましたよ。よくやったなと思います。若いから何でもできたのかもしれませんけど、いろいろな経験の中で勉強させてもらってきました。

——2018年には「最高齢の現役薬剤師」として、ギネス世界記録にも認定されましたね。

孫の康二郎がいろいろ調べて、申請などすべてをやってくれました。私は何か大きな功績を残したわけではなく、ただひたすら、目の前の患者さんに向き合ってきただけなので、こんな賞をもらってもいいものかと思いました。
ですが、このギネス記録を通して、一人でも多くの方に日々継続することの大切さをお伝えし、生きる希望や勇気を与えることにつながるのなら、嬉しい限りです。
私は自分の家が薬局だったからこそ、この歳まで働き続けることができました。2年前に足腰を怪我けがしてしまって、いま杖をついて足を引きっていますけど、普通にお勤めしていたらこんな人、雇ってもらえなかったわよ。だから恵まれていた、ただそれだけです。

——そうは言っても、75年間、一つ事を続けてきたのは尊いことです。

怪我をする前は、月曜日から土曜日、毎朝8時半から夜7時半まで休まず働いていました。
いまは医者と相談して、お店に出るのは週に一回くらいですけど、出てきてはカウンターの椅子に座って、患者さんと何気ない会話を楽しんでいます。私に会うためにわざわざ立ち寄ってくださる方もいるので、本当にありがたいです。

ヒルマ薬局薬剤師

比留間榮子

ひるま・えいこ

大正12年東京生まれ。昭和19年東京女子薬学専門学校(現・明治薬科大学)卒業。薬剤師である父の姿を見て自身も薬剤師を志し、父が創業したヒルマ薬局の2代目として働き始める。平成30年95歳の時にギネス記録「最高齢の現役薬剤師」に認定。現在も調剤業務を行いながら服薬指導や健康の相談に乗っている。著書に『時間はくすり』(サンマーク出版)がある。