2018年9月号
特集
内発力
インタビュー①
  • ハードロック工業社長若林克彦

人を喜ばせてこそ
会社は発展する

絶対に緩まないネジとして、世界中から注目を集める「ハードロックナット」。開発者の若林克彦氏は、子供の頃から画期的な発明品を多数手掛け「なにわのエジソン」の異名を取る。これまでの足跡を交えて、斬新なアイデアを生み出す秘訣や、自身を突き動かすエネルギーの源についてお話を伺った。

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1万個に1個の不良品も絶対に許さない

——御社の「ハードロックナット」は、「緩まないネジ」として注目を集めているそうですね。

ネジというのは構造上、どうしても緩んでしまうんですが、ボルトと組み合わせるナットの部分に独自の工夫をらして、その常識をくつがえすことに成功したんです。おかげさまで、人命に関わるために絶対緩みの許されない重要建築物や高速鉄道、それから基準がとても厳しい人工衛星など、いろんなところで採用されて、いまは年商も20億円に至っています。

——具体的にいくつかご紹介ください。

有名なところで言うと、明石海峡大橋とか東京スカイツリーもそうです。東海道新幹線が開業50周年を迎えた平成26年には、長年安全安定輸送に貢献してきたことが評価されて感謝状をいただきました。
海外でもたくさん使われていましてね。イギリスの鉄道では、10年ほど前に分岐器のナットが緩んで大事故が起きた時から導入が進められていますし、モンゴルを走っているウランバートル鉄道や、ブラジルで鉄鉱石を運び出す貨物列車にも使われています。
それから、中国ではいま各国の技術を導入しながら高速鉄道の建設が急ピッチで進められていて、性能の優れた日本の新幹線車両が6割くらいを占めているんですが、そこでもハードロックナットが使われています。
ところが向こうはコピーが当たり前でしてね。ある時担当者が、ネジが緩んだと言ってえらい剣幕けんまくでやって来たんですが、現物を見たら、すぐにコピーって分かりました。結局ハードロックナットに変更となりました。元に戻ったことになったのです。

——図らずも、よそに真似のできない商品であることが証明されたわけですね。

おかげさまで、創業以来何億個と納品してきましたけど、ネジの緩みの不良は1つもありません。普通は1万個に1個や2個不良品があっても構わないってルーズな考えに陥りがちですが、うちは絶対にあかんと言って徹底して検査していますからね。

ハードロック工業社長

若林克彦

わかばやし・かつひこ

昭和8年大阪府生まれ。大阪工業大学を卒業後、バルブメーカーを経て、36年冨士産業社(現・冨士精密)を創業。その後、緩み止めナット「ハードロックナット」を開発し、49年ハードロック工業を設立。同商品は、絶対に緩まないことが求められる交通機関や機械、建築物などに広く採用されている。著書に『絶対にゆるまないネジ——小さな会社が「世界一」になる方法』(中経出版)がある。