2020年6月号
特集
鞠躬尽力
インタビュー①
  • アドマテックス社長安部 賛

百忍千鍛事遂ひゃくにんせんたんことついまっとうす

トヨタ自動車「発」であり「初」のベンチャー企業として目覚ましい飛躍を遂げるアドマテックス。実験の失敗によって偶然生まれた真球状シリカ微粒子・アドマファインは半導体に不可欠な素材として現在シェア約9割を占めるという。アドマファインの発見者で、現社長の安部 賛氏の華々しい成果に隠された鞠躬尽力の軌跡を辿ることで、物事を成功に導く秘訣を探りたい。

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創業30周年全世界に広がる技術力

——安部社長が率いるアドマテックスはトヨタ発のベンチャー企業の第1号だそうですね。

ベンチャー企業といっても、2020年でちょうど創業30周年を迎えます。当時、トヨタ自動車の中で車以外の新規事業を立ち上げる流れがあり、僕が発見した真球状シリカ微粒子・アドマファインが上司の目にまり、会社設立に至りました。その時僕は37歳で、一社員としてアドマテックスの経営に加わることになったんです。
弊社の他にも、トヨタの新規事業としてこれまでいくつかの会社が立ち上がりましたが、残念ながらその分社型以外(車関連以外)、当時設立した多くの企業は厳しい状況になりました。
また、トヨタの約600社の連結子会社の中で、弊社はトヨタと取り引きがない稀有けうな会社です。

——どういうことでしょうか?

子会社の多くが自動車関連事業のため、トヨタと何かしらの形で取り引きをしています。しかし弊社はアドマファインという非常に細かいガラスの粉を販売する化学会社なので、トヨタとの売買はなく、完全に独立した経営をしているんです。

アドマファイン

——アドマファインはどのような製品に使われているのですか?

半導体には必須の素材で、世の中に出回っているスマートフォンやパソコンには約9割使用されています。その他、カメラや液晶テレビ、研磨材や遮熱しゃねつ塗料など幅広い用途で活用されています。他の無機材料と比べて熱膨張率が格段に低い上に、煙と同じくらい細かいので小さな製品にも使用しやすいと重宝されているようです。IoTの普及や5Gファイブジー化の加速によって、今後さらに需要の高まりが期待されています。

アドマテックス社長

安部 賛

あべ・すすむ

昭和28年福岡県生まれ。56年九州大学大学院総合理工学研究科材料開発専攻修士課程を修了後、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。60年事故から偶然に真球状シリカ微粒子・アドマファインの合成法を発明。平成2年アドマテックスの設立に参画。21年同社社長に就任。著書に『異端者たちの挑戦』(幻冬舎)など。