2026年8月号
特集
時務を識る者は
俊傑に在り
インタビュー①
  • 東京大学大学院工学系研究科 教授加藤泰浩

南鳥島沖に眠る
レアアース泥が
日本の未来をひら

スマートフォンや電気自動車、LEDを筆頭に、ハイテク産業には欠かせないレアアース(希土類)。その巨大鉱床が南鳥島周辺の海域に眠っていることを世界で初めて突き止めたのが、地質学者の加藤泰浩氏である。現在は国産レアアース資源開発の実現に向け、様々な取り組みを進めている。レアアース研究の第一人者である氏の研究人生を交え、レアアースを取り巻く現状と課題、そして日本再生の道筋を語っていただいた。

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    東京大学大学院工学系研究科 教授

    加藤泰浩

    かとう・やすひろ

    昭和36年埼玉県生まれ。60年東京大学理学部地学科卒業。平成2年同大学大学院理学系研究科地質学専攻博士課程修了、理学博士。山口大学理学部助手、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て、平成24年より現職。令和5年4月から3年間、東京大学大学院工学系研究科長・工学部長を務めた。千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター所長も兼務。著書に『太平洋のレアアース泥が日本を救う』(PHP新書)がある。

    レアアース泥は日本の生命線

    ──今年(2026年)2月、みなみとりしま沖の深海5,600メートルでレアアース(るい)を含む泥の採取に内閣府のチームが世界で初めて成功し、話題を集めました。

    レアアースでいが脚光を浴びていることは、日本の未来にとって明るいきざしだと思います。特に今回の採取成功は、研究開発の面で大きな意義がありました。
    ただ、私たち東京大学チームが最も重視するのは迅速な産業化です。なぜなら、レアアースほどサプライチェーンで付加価値のつく資源は他にありませんから。現在日本はレアアース原料を中国から年間860億円で輸入し、製品市場は年8.5兆円、レアアース製品を用いたハイテク産業は年34.5兆円に上ります。400倍の経済市場に直結するので、この資源確保は絶対に必要なんです。
    ところが、現在はその大半を中国に握られているせいで、様々な混乱が起こっています。また、中国は南鳥島のEEZ(排他的経済水域)に隣接する公海上の調査を活発化させており、たんたんと公海上の資源開発を狙っています。ここでおくれを取るわけにはいかない。一刻も早く産業化を実現しなければならないと、危機感を募らせています。

    ──事態は一刻を争うと。そもそも、レアアースとはどのような資源なのですか。

    レアアースは、スカンジウムやイットリウム、ランタノイド15元素の全17元素の総称を指します。詳細は省きますが、特殊な電子配置を持ち、その特殊性ゆえにスマホをはじめとした様々なハイテク製品に使われています。
    例えば、磁石。レアアースの一つであるネオジムを含んだ、磁力が格段に強い磁石によって、自動車のモーターは動くのです。それからLED、半導体、燃料電池の他、インフルエンザの治療薬やMRI造影剤などの医療分野でも重要な役割を果たしています。レアアースがなければ、日本の産業は立ち行かないんです。

    ──私たちの日常生活に欠かせない資源なのですね。

    しかしながら、現在は中国が世界生産量の約70%、精錬まで含めると市場の91%を独占しています。陸上のレアアース鉱山はアメリカやオーストラリアにもあるのに、なぜ中国が独占できるのか。一番の理由は、環境問題に対する意識の違いです。
    陸上のレアアース資源には、放射性物質のトリウムやウランが含まれます。精錬過程の処理コストが高い上、環境に負荷がかかるために、環境基準の高い国では精錬ができません。結果的に、中国が他国で採掘された鉱石の精錬も独占的に引き受ける構図になっているわけです。

    ──どうすれば中国依存を打破できるのでしょうか。

    鍵を握るのは、我々が2012年に発見した南鳥島海域に眠るレアアース泥です。レアアース泥は日本の生命線であり、従来の鉱床にはない際立った長所をいくつも兼ね備えています。
    まずレアアースの含有量、特に希少性が高い重レアアースの含有量が非常に高い。島の周辺に広く分布し、南鳥島南方の有望海域(EEZのわずか1%の面積)だけでも、世界埋蔵量で第3位に相当する膨大な量が存在します。資源探査と抽出も容易にできる。そして何より、放射性物質を含まない、まさに〝夢の泥〟です。
    この資源の採取から精錬、モノづくりまで一貫したサプライチェーンをつくり上げることこそ、日本の勝ち筋だと私は考えています。中でもきもになるのが、精錬です。かつて日本は精錬技術をリードしていましたが、国内事業は縮小の一途を辿たどっています。技術者の多くが定年に差し掛かっているいま、早く進めなければ貴重な技術が失われてしまう。いまがラストチャンス、ラストミニッツなんです。

    日本のEEZ(排他的経済水域)