2017年2月号
特集
熱と誠
対談
  • 社会教育家田中真澄
  • 作家城島明彦

石田梅岩
『都鄙問答』
に学ぶ

『石田梅岩「都鄙問答」』(致知出版社刊)が反響を呼んでいる。江戸の世に石門心学を起こした希有の思想家・梅岩の教えが、いまなお人々を惹きつけて止まないのはなぜか。現代を生きる私たちが刮目すべき真理とは何か。梅岩の教えに造詣の深い田中真澄氏と、現代語訳に携わった城島明彦氏に語り合っていただいた。

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石田梅岩に成り切って『都鄙問答』を現代語訳

田中 城島さんの訳された『石田梅岩「都鄙問答」』が大変反響を呼んでいるそうですね。私もこれはいいと思って、致知出版社から発刊される時にすぐ予約して、買わせていただいたんですよ。

城島 あぁ、そうでしたか。それはありがとうございます。

田中 私はいま各地の商工会議所などでベンチャービジネスセミナーをさせていただいているんですが、この頃はそういう場で、「皆さん、石田梅岩ってご存じですか?」と聞いても、ほとんどの方が知らないんですね。中高年の方でも「知りませんなぁ」と。ですからこの城島さんのご本を通じて、石田梅岩に改めて光が当たることを期待しているんです。

城島 調べてみたんですが、『都鄙問答』の現代語訳というのはこれまで1冊しか出ていないんです。ですから私の本が2冊目の現代語訳で、平成では初めてのものになるんですけれども、なぜこんな貴重な本がもっと訳されないのかな、という疑問がありました。
少し前に岩波文庫から『都鄙問答』の原典がリクエスト復刊されましたから、読みたい人はいるんですよ。でもあの原典を開いて、読める人がどれだけいるだろうと。それなら自分が訳してやろうじゃないのって、ちょっと偉そうなことを思ったわけです(笑)。

田中 もう何度も拝読しましたけど、初めて手に取った時は非常に新鮮でした。原典は文字がページにぎっしり埋まっていて読むのに骨が折れるんですけど、城島さんは適宜改行を加え、内容を区切って小見出しを付けてくださっている。難しい言葉にはその都度注釈も添えてくださっていて、とにかく非常に読みやすいんですね。いやぁ、いいものを出していただいたなと。同時に、随分ご苦労もなさったろうな、というのが行間から伝わってきますよ。

城島 最初は2か月くらいで訳し終えるつもりだったんですが、とんでもない話でした。他の仕事もやりながらではあったんですが、4月から始めて結局8月くらいまでかかりましたね。
それからざっとゲラをチェックしたんですが、何か違和感があるんです。結構分かりにくい言葉遣いをしているなと。そこで、これは著者に成り切らなければダメだなと思ったんです。

田中 あぁ、著者に成り切る。

城島 私は若い頃、映画の助監督をしていたんですけど、役者さんが登場人物に成り切って演じるように、私も石田梅岩の気持ちに成り切らなければならないと。そこにちょっと時間がかかりましたね。
普段はパソコンで現代語訳を直接入力するんですが、今回の『都鄙問答』では、貝原益軒の『養生訓』の時のゲラの裏にあえて手書きで書き込んでいって、あとからパソコンに打ち込んだんです。梅岩が私に「手で書かなきゃダメだぞ」と言っている気がしましてね。そんなこといままでやったこともないんですけれども、非常にいい勉強になりました。こんな自分が少しは世のためになる仕事ができたのかな、いい仕事をさせていただいたな、と満足しています。

社会教育家

田中真澄

たなか・ますみ

昭和11年福岡県生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業。日本経済新聞社、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)を経て、54年独立。ヒューマンスキル研究所を設立。社会教育家として講演・執筆活動を展開。著書に『人生は「自分の力」で切り開け!―石田梅岩・二宮尊徳の教え』(大和出版)『百年以上続いている会社はどこが違うのか?』(致知出版社)などがある。

90歳まで生きる時代の拠り所に

田中 発刊のタイミングも、非常によかったと思います。と言いますのはね、この頃経済誌を読んでいると、日本人は90歳まで生きる時代になったと盛んに書かれているんです。いま定年が60でしょ。その後の30年近くをどう生きるべきかと。しかし大半のサラリーマンは、もう60で十分だと。あとは余生という発想から抜け切れていないんです。

城島 なるほど(笑)。

田中 サラリーマンの人生は大まかに、まず幼稚園から学校へ行くまでの未就学期、次に大学を卒業するまでの就学期、さらに会社に入ってからの就職期に分けられると思うんです。いままではこの就職期で終わりだったけれども、これからはその後に「就商期」というのが来る。サラリーマン時代は、定年後の「就商期」の準備期間に過ぎない。60からが本番だということを、私は盛んにお話しさせていただいているんです。
ところが日本人はその準備を全くしていない。ではどうしたらいいか、という時に拠り所とすべきなのが、石田梅岩の提唱する商人道であり「石門心学」だと私は考えるんです。そういう強い問題意識を抱いている時に城島さんのご本を拝見したものですから、非常にいい時に出していただいたなと喜んだわけですよ。

作家

城島明彦

じょうじま・あきひこ

昭和21年三重県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。東宝、ソニー勤務を経て、『けさらんぱさらん』でオール讀物新人賞を受賞し、作家となる。著書に『「世界の大富豪」成功の法則』(プレジデント社)『広報がダメだから社長が謝罪会見をする!』(阪急コミュニケーションズ)など。現代語訳書に『五輪書』『吉田松陰「留魂録」』『養生訓』『石田梅岩「都鄙問答」』(いずれも致知出版社)などがある。