2017年2月号
特集
熱と誠
インタビュー③
  • 指揮者根本昌明

命懸けの情熱が
最高の感動を生む

一介の英語教師から身を起こし、50歳にしてプロの音楽家に転身した異色の指揮者がいる。青年期から苦しめられた躁鬱病を克服し、幾度の困難を音楽の力を信じて乗り越えてきた根本昌明氏、その人だ。その命懸けの演奏は、聴衆の心だけではなく、オーケストラや合唱団のメンバーの魂にも火をつけるだけの迫力を持つという。一音入魂に徹した指揮者の言葉には、熱と誠が溢れている。

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チクルスに挑む

──根本さんは独学で指揮者として身を立てられ、67歳になられたいまもプロオーケストラを指揮するなど演奏会開催に余念がないとお伺いしています。

いま私がライフワークとして取り組んでいるのが、平成24年以降福島市内で毎年開催している「東北復興支援コンサート」です。第1回は東京ニューシティ管弦楽団と東京合唱協会のメンバーとともに東京都調布市でベートーヴェンの「第九」公演を打って、その1週間後に福島に持って行ったという経緯があるんですよ。
「第九」には世界中の人たちが一つの喜びの輪をつくって、平和を謳いながら皆が友になるという、ベートーヴェンの願いが込められています。その「第九」をはじめとした曲で最高の感動を誇る演奏をすることで、世界に誇れる音楽祭に育てたいという思いで続けてきました。

──壮大な挑戦ですね。

その一環として、ベートーヴェン交響曲全9曲すべてを演奏するチクルス(全曲演奏会)にも平成28年7月から取り組み始めていて、初回に演奏したのが、第三番「英雄」と第七番でした。
なぜ私がチクルスに打って出たのかというと、福島の方々の力になるためには、やはり自分が音楽家としてメジャーになっている必要があるだろうと。いくらいい演奏をしても、無名のままでは共感の輪が大きくなっていかないと思うんですよ。
もっとも、音楽雑誌などでは20年以上前から専門家の方には、高い評価をいただいてはいたんですけどね。

──演奏会ではその実力を評価されてきたわけですね。

ええ。ところが悲しいかな、いまの時代、指揮者というのはきちんと音楽大学を出て、コンクールで賞を取った人間だけが認められる。一方、私のように全く違ったルートを選ぶと、たとえどんなにいい演奏をしていても、お客様が入らないのが現実なんですよ。
ですから、その現実を背負って、敢えてチクルスに挑戦しているんですけど、これに関しては後ほどお話しすると思うのですが、かなりの手応えを感じています。

指揮者

根本昌明

ねもと・まさあき

昭和24年東京都生まれ。上智大学卒業。公立中学校英語教師の傍ら、61年から10年間レーベンバッハ吹奏楽団を組織。平成8年プロオーケストラを指揮し、楽壇デビューを果たす。24年東京ニューシティ管弦楽団、東京合唱協会を指揮し、「第九」東北復興支援チャリティーコンサートを調布市・福島市で開催。以降、「東北復興支援コンサート」を福島市内で毎年続けている。28年からベートーヴェンが作曲した全九曲の交響曲連続演奏会(チクルス)を始める。